これまで情報発信では、印刷物や放送・講演などが主な手段であったが、今後はインターネットが新たな手段として地位を確立することになろう。ホームページの作成にかかるコストは極めて低くなったため個人でも世界に向けて情報発信が可能となった。また、これらの情報のほとんどが自ら破棄しない限り、ストックデータとしてネットワーク上で活用できる。このようにデータが蓄積してゆくに連れ、利用に対するモチベーションはさらに高まり、利用者数も相乗的に増加する。
また、インターネットは双方向性を有するネットワークであるから、参加者の増加によっては電話・手紙・FAXと同様、新たなコミュニケーション手段としても利用できる。すでに大企業では、電子メールを中心としたグループウェアの利用が一般的になりつつある。
もちろん新しいネットワークの良い面ばかりでなく、負の側面も見つめなければならない。例えば、交通ネットワークで自動車がもたらす効用は計り知れないが、公害や交通事故・渋滞などの外部効果も付随して発生する。同様に情報ネットワークにもクラッカーやウィルスなどの被害は年々増加しており、セキュリティなどにおいてこれまで考えられなかった問題が出現している。しかし、このようなマイナス面を強調し、否定的態度をとるのではなく、ネットワークの特徴を捉え、どのように活用するかを積極的に見出すことが重要であろう。
既設の情報ネットワークの回線は、狭く細い一般道路のような状態である。近い将来「情報スーパーハイウェイ(高速道路) 」といわれるような高速デジタル回線が整備されると、VODなどのインタラクティブなメディアのサービスが本格的に提供可能となる。日本は、情報化社会における車や道路を作る技術力は抜群であるが、車を運転できる人が少なく、また養成機関も貧弱である。小中高の教育機関では、コンピュータを活用できる教師が少なく、情報教育をする設備も不十分であるといわれている。受験科目ではないので、そのような教育に傾注することが難しい状況にある。しかし、いずれかの機関においてネットワーク社会へ向けた人材育成をすることが必要である。
車のメカニズムや道路の構造を覚えても運転はできないのと同様に、情報ネットワーク社会へ適応するための特殊な技術や専門的知識は不要である。特別なことと身構えるのではなく、日頃からネットワークを使う習慣にすれば、自ずと必要な技術は身につくものである。一番大切なことは、何を求めてどこへ探しに行くか、そのためには何が必要なのかを認識することである。受け身の姿勢では何も始まらないインターネットは、莫大な情報から効率的に必要なものを収集・整理し、さらに自分の意見を述べるための道具として適している。
研究機関として大学は、比較的早い時期から情報ネットワークが優先的に整備されてきた。この新インフラを有効活用するには、まず、学内すべての人がイントラネットで情報発信とコミュニケーションができるようになることである。そして、構成員の増加と情報の蓄積の効果によりネットワークが必要不可欠なものとなり、電話などと同様、何ら特別ではなく身近な存在となる。このようにしてネットワーク市民(ネチズン)をひとりでも多く育てることが、研究教育機関として期待される大学の社会的使命のひとつかも知れない。