特集:漂う日本

バブルの後遺症と規制緩和

藤井信秀
[Hujii,Nobuhide 経済学部助教授・商法T,U]



 船のエンジンの調子が悪く、漂っているのに、レースを始めなければならなくなり、困っている。そんな状態でしょうか、今の日本は。日本はこの先どうなってしまうのか。無事にエンジンが直り、レースを始めらるれるのか、それとも沈没してしまうのか。エンジンの調子が悪くなったのは、バブル経済の為です。
株式や土地の値段が上がり続けたとき、愚かにも企業はこのまま際限なく上がり続けると信じ、株式の時価発行や転換社債の発行で資金を手に入れ、更に株式や土地に投下した。銀行など金融機関も土地を担保に目一杯の貸付を行った。
しかし、あえなくバブルは崩壊した。株式や土地を高値で取得した企業には多額の損失が、その企業に貸付をした金融機関には多額の不良債権が発生した。その不良債権の処理は峠を越えたと何度も発表されたが、銀行の抱える不良債権額は、その後も増え続けている。正確に不良債権額はどれだけあるのか分からない状態です。エンジンの調子が悪いが、どの程度悪くなっているのか、どの程度の修理費用がかかるのか分からない状態です。これで修理をすることが可能でしょうか。

 このような状態の中で、激しいレースが始まろうとしています。規制緩和です。今まで日本には多くの規制が存在しました。一定の事業分野(特に銀行、保険、証券)への参入は自由ではなく、取り扱う商品の内容、支店の設置についても規制がありました。この規制によって、これらの業界に落ちこぼれ(倒産企業)が出ることを防ごうとしてきました(護送船団方式)。
どこと取引をしても安全であり、商品の内容も同じであったため、近くで便利なところと取引をすればよかったのです。しかし、これからは取引企業と商品を、自分の責任で選ばなくてはなりません。そのためには、判断できるだけの知識を獲得しておく必要があります。そして、煩わしいことですが、判断するための情報を自分で入手する必要があります。もっとも、その情報そのものが正確かどうか疑問がありますが。

 激しい競争の結果、今ある金融機関のうちどれだけが将来生き残っていけるでしょうか。その他に、日本には高齢化・少子化という大問題もあります。日本は、本当にどうなってしまうのでしょうか。

図書館報「α」Vol.10 No.2目次にもどる