特集:キレる若者達





素直な心





達本美香(たつもと みか)


[商学部講師・英語]



 今の日本の若者は、甘えが強くちょっとした事ですぐ「キレる」という言葉をよく耳にする。実際にはどうなのだろうか。私が知る日米の学生についてここで少し触れてみたい。

 私がアメリカで大学院生だった頃、授業を受けてまず驚いたのはその大らかさであった。専攻が教育関係だったこともあって、学生は教員をしている人が多かったのだが、学生も先生もチョコレートなどを食べながら、そして中には寝転びながらという学生もいて本当にリラックスした雰囲気であった。

 しかしながら授業は活気に満ちていて、学生からの発言や質問が多く、そのために授業が滞ることもしばしばだった。さらに、授業内容や評価は厳しいもので、涙が出そうになった事も一度や二度ではなかった。その時にアメリカというのは一見自由で楽しそうに見えるが、その反面取らなければならない責任も重いのだと強く感じさせられた。

 この時受けた印象は、その後ロサンゼルス郊外のマリブという町にある大学でアメリカ人学生を教えるようになってからも変わらなかった。リラックスした雰囲気の中で学生は常によく質問し、発言も活発で質問攻めにあうことも少なくなかった。彼らは目的意識が明確で、大学での成績が就職に大きく関わっていることもあって授業態度は常に真剣そのものであった。

 さらにその行動や積極性にも目を見張るものがあった。ある時、私の日本語中級クラスを受講していた学生達が「上級クラスも先生に教えてほしい」とやって来たので、それは私が決められることではないと説明すると、今度は他の学生達の署名を集めて来て、授業で「We Want!」の合唱を受けた。その時、ただあっけにとられ呆然としてしまったのを今でもよく覚えている。さらに彼らは学科長のところへ直談判?に行き、とうとう彼らの要求は通ってしまったのである。
 
 このような経験をしたためかどうかは分からないが、日本人学生は当初とても頼りなく甘えが強いように思えた。

 しかし、すぐにまた違った印象を持つようになった。学生達に授業の感想などを無記名で書いてもらうと、本当に素直な心を持っていることや口には出さなくともきちんとした彼らなりの意見を持っていることが伺えるし、授業でも発言し易い環境を作ってやると、皆の前で臆することなく発言し、それが当たり前にできる能力をそれぞれが持っていることに彼ら自身が気付き始めたからである。

 昨今、犯罪の低年齢化や中学校等での「学校崩壊」への脅威、さらには「伝言ダイヤル」といった類のものへ過剰な依存を来たす若者達の事が取り沙汰されているが、若者らしい素直な心を失わず自分の目標に向かって努力をする若者もまだまだ多いのではないかという希望を持っていたいものである。

図書館報「α」 Vol.11 No.1 目次にもどる