特集『20世紀を振り返って』

今世紀を振り返って


小川文雄

[Ogawa, Fumio 商学部教授・財務会計論]


 いきなり前世紀に遡ってしまうが、私が生まれる百年前は、かのペリーも来航しておらず、りっぱに江戸時代であったはずだ。しかし、開国後の急速な近代化に伴う都市開発や太平洋戦争時の戦災やらで、江戸の名残を留めるものは、私の子供の頃にはすでに、今日の如く、城跡や武家屋敷、神社、寺院などを散見する程度であった。ただ今日と違う点は、映画と後にはテレビで、時代劇が、およそ明治維新後百年経つ1970年頃まで、盛んに上映あるいは放映されていたことである。これは前世紀の名残かとも思われるが、また一方で我が国の1970年頃は、第二次世界大戦後の高度成長期の終了する頃でもある。
 私の生まれる五十年前は明治時代ではあるが、すでに今世紀である。前世紀末期に行われた日清戦争の後であり、かつ日露戦争の直前である。
当時は、資本主義経済が高度に発達したヨーロッパ諸国が海外進出や植民地獲得をそれぞれの国の政策として持ち、遂行していた頃である。
我が国もそのような世界的競争に参加し、自信を持ち始めたころであったはずだ。やがて日露戦争を経て、我が国は軍国主義国家の道を歩み、自信過剰、傲慢の果てか、はたまた窮鼠の一撃か、太平洋戦争に突入し、巨大な敗北を迎えたわけである。
 私が生まれた時には、第二次世界大戦終了時よりおよそ7年間にわたる、連合軍による我が国の占領統治が終了しており、GHQもすでに廃止されていた。我が国が再び独立国家として歩み始めた頃であり、したがって私はかの大日本帝国皇民としても被占領民としても生きてきたことはない。
しかし、私が子供の頃には、至る所に戦争の爪痕が残っていた。近所には被爆地点の大きな穴、街には傷痍軍人、郊外には軍需工場跡や兵舎跡、空には大戦時に活躍した米軍戦闘機が。また、小学校にはやたらビンタを飛ばす軍隊帰りの暴力教師がたくさんいた。
テレビでは、東京オリンピック開催頃まで、時代劇や第二次世界大戦の実写フィルムのほか、アメリカのテレビドラマが盛んに放映されていた。
 学生諸君は高度成長終了後の1970年代後半生まれであるから、東西冷戦の終結を体験し、21世紀をおもな活躍の場にする人達である。
しかし、その時もおよそ百年前の日露戦争前後からの、およそ五十年前の第二次大戦終了時からの直前の濃い歴史が、各種マスコミを通じて提供されるであろう。

図書館報「α」Vol.9 No.1目次にもどる