特集『20世紀を振り返って』

コンピュータと半世紀


梶田建夫

[Kajita, Tateo 商学部教授・情報学]


 私が大学を卒業してから去年でちょうど30年になった。
 大学4年の時に卒業論文のテーマとして与えられたものがコンピュータ(当時は電子計算機という呼び方が多かった)を使用して行うものであったため、それ以来いろんな面でコンピュータというものに関わってきた。この間研究の面でも教育の面でも、初期の段階の汎用大型コンピュータから最近のパソコンまでを利用してきたが、コンピュータ分野での種々の発展には大きな影響を受けた。
 計算の道具としてのコンピュータの歴史は紀元前のアバカス(そろばん)というようなものから始まるが、現在のコンピュータの基礎となるものが製作されてからは50年ぐらいしかたっていない。最初の電子式の計算機として有名なものは1943年から1946年にかけてペンシルヴェニア大学でモークリーとエッカートにより開発されたENIACというものである。ただ、これについては別の見方があり、これ以前にアイオワ州立大学で製作されたアタナソフによるABCマシンといわれるものが最初であるとするものもある。これについては、特許の関係でどちらが最初であったのかが裁判で争われており、その経過が本にもまとめられている。また、コンピュータというものの定義により、見方が異なってくる場合もあり、フオン・ノイマンらによるプログラム内蔵方式という理論にしたがった計算機がコンピュータであるとする見方のときには、ケンブリッジ大学のウィルクスにより1949年に開発されたEDSACというものが最初であるとされている。いずれにしてもコンピュータというものが誕生してから約半世紀たったことになる。
 一方、現在のパソコン(初めはマイコンともいわれた)の最初のものがいつ現れたかというと、1970年代になってからで、ラジオやエレクトロニクスの趣味の分野に始まっている。したがって、最初はマイクロプロセッサのチップを組み立てるキット式のものであった。一般のユーザが利用できるようなパソコンが販売されたのは1977年ころのタンディラジオジャックのTRS−80、コモドールのPET、アップルコンピュータのApple IIである。これらの記事の載った雑誌を見て、私も興味を持ち使ってみたいと思ったものである。その後1978年から1981年にかけてシャープからMZ80、日本電気からPC8001、富士通からFM8というようなパソコンが販売されるようになり、それまで多人数で1台の大型コンピュータを使っていたという環境から、コンピュータが個人で利用できる環境が考えられるようになってきた。初期のパソコンはゲームでの利用が中心であり、研究で利用できるようなものではなかった。私がワープロとして利用し始めたのが1983年ころからで、最初に学生に卒論でパソコンを利用させたのは1986年ころである。このころからしだいに研究にも、教育にもパソコンを利用する機会が多くなった。
 パソコンのハードの発達とともにソフトやその利用環境も進展してきた。初期にはいろいろのOSで利用されていたが、しだいにマイクロソフトのものが主流になり、DOS、Windows3.1、Windows95というように変化してきた。このOSに対応したより使い勝手のよいソフトが開発され、いよいよパソコンの利用が拡大してきた。特に通信やネットワークに対応できるようになってからは、単独にパソコンでの情報処理が行われるだけでなく、情報を共有するとか、コミュニケーションを行うというような新しい利用が中心となってきた。また、インターネットの発展により世界規模での情報の発信と流通が可能となるというような状況にもなっている。
 この半世紀でのコンピュータ分野の変化はこのように急激であり、現在のような情報のネットワークが世界中に張りめぐらされるような社会の発展に貢献してきた。
この情報化社会の発展に貢献したコンピュータが今後とも、より利用されていくことは明らかであるが、それがどのように評価されるかは21世紀に入ってからの問題となるか
もしれない。

図書館報「α」Vol.9 No.1目次にもどる