特集:私のオールタイム・ベスト

私のオールタイム・ベスト


柳 善和

[Yanagi,Yoshikazu 外国語学部助教授・英語教育学]



@ヴィスコンティ(監督)『家族の肖像』
Aモーツァルト『クラリネット協奏曲イ長調K.622』
Bトルストイ『戦争と平和』新潮文庫/岩波文庫
CMicrosoft Encarta ’97 Encyclopedia.
 @は学生時代に見た映画である。それ以来見ていないが、20年間私のベストである。Aは他にも「ベスト」候補はたくさんあるが、ひとまずモーツァルト最晩年の傑作で代表してもらう。 Bは活字メディアから、これも数ある中から今回はこれを。高校の時に人の名前、話の筋やつながりが混乱したままで読み終えた。全部理解したとは言い難いが、感動したのは確かである。メディアを問わずと言いながら、今回も候補にあげた作品は活字メディアが圧倒的多数であった。 CはCD-ROM版の百科事典である。最近日本版も発売されたが、ここでは英語版を。英語版ではCD-ROMに収録されている説明以外でも、インターネットに自動的に接続して関連項目を参照したり、毎月バージョンアップ情報をダウンロードすることが出来る。 Cは最近の製品だが、あとはいずれも(もっと)若いときに見たり、聞いたり、読んだりしたものである。出会うことが何から何まで新しい時期だから、強烈に印象づけられるのかもしれない。そのうち少しずつ経験を積むと、その経験から物事を判断し始める。それ自体は自分自身を形成する過程であり、大切であるのだが、一方で、とっつきにくそうなもの、自分のそれまでの価値観からはずれているもの、前に見たものなどを最初から排除して自分の殻に閉じこもるようになる。
 「オールタイム・ベスト」というのはその人の殻のようなものである。その殻にはその人のものの考え方が反映されている(だからこういう特集は書く本人にとっては恥ずかしい)。もちろん、長い人生では(特に学生時代を過ぎてからは)、自分がそれまで作った殻を壊して、新しい殻を作り直す活力も必要である。ただし、最初から壊す殻もないようでは情けない人生になるので、学生時代にはぜひ自分の殻の材料をせっせと集めてほしい。

図書館報「α」Vol.9 No.2目次にもどる