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パソコンと授業
松原克正
[Matsubara,Katsumasa 経済学部講師・金融論]
名古屋学院大学経済学部では96年(昨年)度以降入学の全学生にノート型パソコンを持たせ、ワープロや表計算ソフトなどの基本的な操作方法は必修科目の中で指導するようになった。そのおかげでパソコンを直接指導していない私の授業でも、学生がパソコンを使えることを前提に課題を課すことができるようになった。中でも特に効果的な授業が「基礎演習」という科目である。
基礎演習というのは1年生を対象とした科目ではあるが、その授業形態は教員が学生に「知識」そのものを教える多くの講義と異なり、学生が自ら調べ、報告し、討論するという、いわゆるゼミナール形式をとっている。ここでは知識そのものを教えるのではなく、報告・討論のマナーやレポート・論文の書き方など、ルールの指導が中心となる。毎回学生が教壇に立って報告を行い、質疑応答や討論を行うのである。各教員によって報告させる内容は若干異なるが、私の授業では前期はテキストの内容を、後期は夏休みの課題として提出するレポートの内容の報告を行っている。報告者が作成し配布する報告資料は「レジュメ」と呼ばれるが、二年前と大きく変わったものの一つがこのレジュメである。二年前の学生は全員がパソコンもしくはワープロを持っていたわけではないので手書きによるものがかなりの割合を占めていた。昨年度からワープロでの作成を義務づけたところ、見た目がきれいになったのは言うまでもないが、テキストには直接載っていない経済関係のデータを自分で調べ、それをグラフにして紹介する学生が現れ始めた。テキストの内容を報告する場合、関連する新聞や雑誌の記事をコピーして添付する学生は以前からいたが、何の加工もしないでそのまま引用するケースがほとんどであった。その点、報告しやすいように自分でデータを加工しようとする姿勢が見られるようになったのはパソコンの使い方に慣れてきたためであると思われる。
夏休みの宿題として課しているレポートでもパソコン導入による影響が現れている。レポートとは言っても8,000
字程度(400
字詰原稿用紙で20枚相当)の課題であるためちょっとした論文といってもよい。参考文献の示し方や注の付け方を含め作成する上でのルールも論文の体裁で指導している。これもワープロでの作成を義務づけているので見た目はきれいにできあがるし、グラフや表の活用はレジュメ以上に多く見られる。それに加えて、ワープロを使用することの最大のメリットは書き直しが楽になったことである。基礎演習にでている学生のほとんどは大学に入って数ケ月の1年生であるため8,000
字の論文を作成することは初めての経験である。そのため、夏休みが終わった時点で提出されたものは(ほとんどの学生が一生懸命努力しているが)やはり完成度が高いとは言い難い。手書きで8,000
字の論文を書き直すのは大変な作業だか、ワープロの場合にはコピー&張り付けを使えば全面的に書き直す必要がない。したがって、二年前には修正個所を指摘するだけだったものを昨年度からは再提出させるようにした。中には三回も再提出した者もいたがほぼ全員が一応の出来にはなった。授業の最後に基礎演習の感想を書かせたところ、「夏休みのレポートは大変だった」という意見ももちろんあったが「完成させたことが自信になった」という意見が多数見られた。実際、大学1年生の書いたものとしてはなかなかいい線をいっている論文を多くの学生が仕上げている。また、後期の授業ではレポートの報告を行うが、今年の1年生の中にはプレゼンテーション用のソフトウェアを使ってパソコン上で報告したいという者が現れた。これも初めてのケースである。幸い設備は整っているので10月頃にやる予定であるが、どのような報告になるのか今から楽しみである。
授業でのパソコンの活用は始まったばかりで試行錯誤の段階であるが、今後も授業のレベルアップにつながるような利用法を工夫していこうと考えている。
図書館報「α」Vol.9 No.2目次にもどる