日本のオレンジ果汁バルク物流
石川 百代(July, ‘02)
 欧米のオレンジ果汁の物流では、港湾の物流基地のタンクファームからタンクローリーによるユーザー工場へのバルク配送が一般化している。現在、約80〜90%がタンクローリーによる輸送で、残りの20〜10%程度がドラム缶輸送とされている。しかしながら、日本ではドラム缶輸送が80〜90%と主流であり、この傾向は1992年4月のオレンジ果汁の輸入自由化と、それに続く1993年の豊橋港におけるオレンジ果汁バルク物流基地開設の後も、約10年間全く変化がみられない。なぜ日本において果汁バルク輸送が定着しないのであろうか。日本特有の理由と今後について考えてみたい。
 
1.バルク物流発達の経緯
オレンジ果汁のバルク輸送の発達に、2つの技術の進化が寄与している。一つは、第二次大戦中に生まれた冷凍濃縮技術である。この技術によって体積が1/5程度に減少し、また、冷凍することにより長期保存が容易になった。つまり物流の量(かさ)が減りそして、生鮮食料品である果汁が、長期保存しうる原料に変化したのである。このことによってブラジルのような南半球の生産地から、北半球の多くの消費者への供給が容易になった。更にもう一つの技術とは、バルク輸送を可能にした点である。濃縮果汁を−8℃程度で移送する技術の開発により、果汁はタンクからタンクへとポンプで移せる程度の粘性を保持できるようになり、これが生産から消費までの物流を一連の流れとして、バルクによる大量輸送を可能にしたのである。1980年代にはそれらの技術を生かした物流手段として、果汁バルク専用船、そして港に隣接した受入れ供給基地がブラジルやアメリカのメジャー供給者によって建造された。現在日本には豊橋と千葉に供給基地があり、この2つの基地を経由した輸入量は市場の約50〜60%を占めている。
 
2.バルク輸送から得られる社会的利益
果汁の国内物流において、バルク輸送へ変化することによりもたらされる社会的利益について、マクロ的には次の3つの側面から挙げることができる。先ず第一に果汁流通コスト、歩留まりの向上という経済的な側面、次にドラム缶廃棄や内袋処理が不要であることによる環境保護的な側面、そして最後に、外気に触れることのない、タンクからパイプという一連のクローズド・システムを特徴とする点において、品質管理的な側面がある。
一方ミクロ面における社会的貢献では、物流におけるノード(node)と呼ばれる結節点での様々な作業に対して生じる、人件費、材料費、再生処理費、そして物流費等の費用削減について挙げられる。ドラム缶充填作業は労働集約的作業であり、受入れた果汁加工業者側でも人手を要する果汁ダンピング作業をすることになる。それらの作業は、品質の維持、管理という面でのリスクを増加させる。
 
3.日本の現状
しかしながら日本の飲料加工業者は圧倒的にドラム缶輸送を利用している。統計によれば、わが国における清涼飲料製造工場は3000社と言われている。市場をリードする大飲料メーカーであっても、直営工場以外に多くの小規模工場にボトリングを生産委託させている。これは、製造量の限られた中小の工場が、主な果汁飲料の生産者であるという結果を生んでいる。一方、日本の消費者の飲料に対する性向には嗜好の多様化と高度化が上げられている。日本人の一人あたりのオレンジ果汁摂取量は欧米の約1/4であり、100%果汁飲料よりも10〜30%の低果汁飲料が市場の主流となっている。
このような消費者の要求に応えて、多くの飲料加工工場では、同一品目の製品を長期間連続して製造することなく少量多品目の生産に従事している。各工場で取り扱う、その他の果汁の多くもドラム缶詰であるためにダンピング作業に対して違和感が無く、従って、ドラム缶詰原料の受入れを前提として設備投資を行なっているそうである。
ある商社はバルク輸送に対して、日本のユーザーは一日5〜10ドラム程度の小口配送が一般的であり、タンクローリー車1回分の配送量を使い切れるメーカーは少ない事、また一般的にタンクローリーでの運賃メリットは年6,000トン以上を扱わないと生じない事等、を転換し難い理由として述べている。実際のところ、欧米のように100%オレンジ果汁を大量に消費する国々では、バルク輸送はごく自然に定着したものと思われる。
 
4.これからの果汁物流
日本におけるオレンジ果汁バルク物流には、今後二つの流れが予想される。
一つめは食品、飲料産業の再編成や再投資化が行なわれつつある現状から、バルク果汁受入れに対応した設備への転換が行なわれる可能性があるということである。平成12年6月の雪印乳業の集団食中毒事件やBSE(牛海綿状脳症、狂牛病)等の一連の食品事件を発端に、食品の安全確保への望ましいシステム作りが求められている。生産から販売までの品質維持・管理、そして安全性に対応した新しいシステムを構築する上で、バルク輸送の基本である衛生管理システムが見直され、バルク受入れに対し投資する企業も現れると予想される。二つめはバルク輸送を供給基地までと考え、それ以降の国内輸送についてはドラム缶を中心に従来通りの方法を踏襲しようとする流れである。バルク船による生産地からの濃縮果汁輸送の効率性、そして供給基地での品質検査や管理の利点を生かしながら、国内輸送については現状通りにドラム缶を用いてゆく方法である。
以上をまとめて、長期的には欧米並みに果汁バルク輸送が進むと思われるが、この4〜5年の中期間においては、まだまだドラム缶輸送が優勢ではないかと予測している。