TOPNGU EXPO2005研究第2号(目次)>巻頭言
巻頭言:地域からの視点
プロジェクト研究代表:小林 甲一(名古屋学院大学経済学部)

 EXPO2005の開催がBIEで承認されて約3年、またわれわれのプロジェクト研究が活動を開始して約2年の歳月が経った。その間、会場基本計画の策定を前にして、その開催は紆余曲折し、会場を「海上の森」と「青少年公園」に広げて開催することとなり、また、それと一体であった跡地の新住構想を棚上げせざるをえなくなった。今後の成り行きに大きな影響をあたえるであろう「愛知万博検討会議(海上地区を中心として)」における議論の推移や会議の経過をみても、会場基本計画の内容や今後の実行プランを見通すことができる段階にはなく、依然として開催そのものも不確実であるといわざるをえないような情勢が続いている。
 わが国でも、中央や中央政府に対峙する意味で「地方の時代」といわれて久しいが、今日は、まさに「地域の時代」であろう。政治システムでは中央集権から地方分権へ、経済システムでは地域経済および中間組織がもつ役割の増大、社会システムでは国民社会から地域コミュニティへ、そして価値システムでは普遍・一律・中心から個別・多様・周辺へというように、時代と社会は明らかに「地域」に向かって動いている。また、視点をグローバルに移してみても、これまで地域を束ね、地域を分断してきた「国民国家」は黄昏を迎え、インターネットではローカル・トゥ・ローカルで瞬時に情報が交換されている。
 とはいえ、「地域エゴ」を主張したり、あるいはいわゆる「地域主義的発想」だけからものごとの本質を見定めたりすることも慎まなければならない。「地域からみること」、つまりきわめて多様な要因が層的に重なって構成されている「地域」を立脚点として限定的、長期的および総合的な視点からものごとの動きや本質を観察すること、時代と社会は、こうした「地域からの視点」を求めている。この視点から、EXPO2005の開催が地域に及ぼす効果を観察すると、「自然環境にはマイナス、経済にはプラス」の単純な図式だけでは看取できないさまざまな効果があるにちがいない。だからこそ、われわれのプロジェクト研究は、当初からこうしたスタンスに立って調査研究を進めてきたのである。
 EXPO2005が標榜する新たな基本理念に立つかぎり、こうした「地域からの視点」を取り込まざるをえないのであり、また、瀬戸にとっても、その視点を生かさないかぎり、活路を見いだすことはできない。いずれにしても、開催の是非も含めた「EXPO2005論議」の経過と内容、会場基本計画のコンセプトと博覧会の会場づくり、および関連事業による瀬戸のまちづくりなど、そのすべてがまさに21世紀型地域政策の実験場となるべきものであろう。ここに、どのような地域共同体が形成されるのか、注目して見守りたい。

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TOPNGU EXPO2005研究第2号(目次)> T.1999年度公開ワークショップ報告
T.1999年度公開ワークショップ報告
プロジェクト研究代表:小林 甲一(名古屋学院大学経済学部)

1998年3月、「2005年国際博覧会が地域に及ぼす効果」を調査・研究するために、本学産業科学研究所に設けられたEXPO2005プロジェクト研究は、1999年5月には研究報告書第1号を発刊するなど、本年度も着実な活動を続けてきました。おかげさまで、博覧会協会や中部通産局、愛知県、瀬戸市・名古屋市・長久手町など地域の自治体、地元の産業界、および一般市民の方々にも広く認知されてきました。今回、こうした研究成果を広く社会に公表し、地域の人びとや本学の学生とともにEXPO2005をテーマとしたディスカッションをするために、昨年の11月から今年の1月にかけて下記の要領で3回連続の公開ワークショップを開催しました。

  公開ワークショップ 地域からの再考:EXPO2005

  [第1回]地域経済   1999年11月25日(木)18:30〜20:30
万博が地域にもたらす社会・経済効果
三井 哲 氏(名古屋学院大学商学部助教授 金融論)

  [第2回]地域政策   1999年12月16日(木)18:30〜20:30
博覧会よりもまちづくりを ― 瀬戸市地域計画の課題 ―
               松村 久美秋 氏(地域問題研究所 調査研究部長)

[第3回]博覧会計画 2000年1月20日(木)18:30〜20:30
博覧会イメージと瀬戸のまちづくり
木村 光伸 氏(名古屋学院大学経済学部教授 地域生態論)

    場 所(3回とも):せとしんエンゼルホール

 テーマは、「地域からの再考:EXPO2005」としました。皆さん、ご存じのように、EXPO2005は、開催決定後も今日まで賛否両論や紆余曲折があり、ついに会場を「海上の森」と「青少年公園」に広げて開催されることになりました。また、会場基本計画の決定を目前にしても、さまざまな議論が繰り広げられています。依然として不確実な部分も多いですが、それが確定しますと、いよいよ準備作業や関連事業が本格的にスタートするはずです。そこで、この時点で、ふたたび「EXPO2005と関連事業が、本学の立地する瀬戸市やその周辺地域にどのような効果を及ぼすか」を考え直したいと思ったのです。
 それも、毎回、最初に基調講演をしていただいた後、お招きしたゲストやわれわれプロジェクト研究のメンバーが加わって質疑応答やディスカッションを展開し、さらにフロアーの参加者の方々にも加わっていただいて繰り広げるというかたちの「公開ワークショップ」を企画しました。
 第1回は、本学商学部助教授の三井 哲氏に、「万博が地域にもたらす社会・経済効果」と題して、イベントの開催が地域の経済や社会にどのような効果をもたらすのか、EXPO2005がこの地域に及ぼす効果としてどのようなことが期待されるか、などについて講演していただきました。コメンテーターも含めた議論のなかでは、その開催効果を費用=便益の両面から分析し、検討する必要があることや、産業基盤整備と観光の面での経済効果が重要であることなどが強調されました。
 第2回は、(財)地域問題研究所 調査研究部長の松村 久美秋氏をお招きして、「交流・共生・自立のまちづくり」をキーワードに、「博覧会よりもまちづくりを ― 瀬戸市総合計画の課題 ― 」という興味深いテーマでご講演いただきました。瀬戸市企画課の政策担当者の方を含めたディスカッションでは、中心市街地の活性化、市民参加の大切さ、地域のひとづくり、そして若者に魅力のあるまちづくりなどが話題になりました。フロアーの学生からも質問や意見が出され、まちづくりや瀬戸のことを見直すよい機会になったと思います。
 第3回の講演は、「博覧会イメージと瀬戸のまちづくり」と題して本学経済学部教授の木村 光伸氏にお願いしました。自然観や地域の視点から、EXPO2005の理念「新しい地球創造:自然の叡知」を具体化できるのは「地域型博覧会」のイメージ以外にはないこと、そしてそれを瀬戸が受け止めてまちづくりや市民参加をおこなうには何が重要か、などについてお話があった後、瀬戸のまちづくりの具体的なイメージや瀬戸から発信する市民参加型博覧会のあり方について議論しました。
 とりわけ、第2回には、瀬戸市企画課の中桐 章裕氏を、第3回には、河村電器株式会社専務取締役で瀬戸の市民活動やまちづくりに取り組んでおられる伊藤 保徳氏をゲストにお招きして有意義なディスカッションを繰り広げることができました。
 毎回、150〜200名の方々にご参加いただき、新聞各紙でも取り上げていただきました。参加者の半数以上は本学の学生でしたが、なかにはとても熱心にメモをとっているものいて、学生にとってもオフキャンパスで地域の経済や社会について考えるよい「課外授業」になったようです。
 私たちの研究グループは、これからも、こうした活動や研究調査の成果公表、また政策提言などを通して、EXPO2005をめぐる動きを見守っていくつもりです。地域や社会に開かれた大学、それから、学生とともに地域や社会を創造できる大学へとますます前進していきたいと思います。
 この報告書の以下のU・V・Wは、こうした3回連続の公開ワークショップでおこなわれた講演とディスカッションをテープで起こしてまとめたものです。なかには、「地域からの視点」でEXPO2005を考える場合の重要な論点や指摘が数多く含まれていると思います。ご一読いただければ幸いです。


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TOPNGU EXPO2005研究第2号(目次)> U.万博か地域にもたらす社会・経済効果
U.万博が地域にもたらす社会・経済効果
【講演】 万博が地域にもたらす社会・経済効果
名古屋学院大学商学部 三井 哲

T.イベントの開催が地域にもたらす効果
 三井でございます。それでは1時間ほど最初に話題提供ということで、万博のもたらす経済効果と社会効果ということについてお話をしたいと思います。
 私は以前、シンクタンクに勤めておりました頃、愛知県から委託を受けて、大阪の千里で開催された日本万国博覧会やつくば博、あるいは花博などについて、現地を訪問し、その開催が地域にもたらした効果をヒアリング調査したことがあります。この報告書がそのときのもので、「2005年国際博覧会の開催効果に関する調査報告書」というものです。また、それ以前にも名古屋世界デザイン博とか、その前に岡崎でありました葵博の経済効果なども調査しています。
 以前、名古屋にオリンピックを誘致しようということで、ソウルと競争したことがありますが、そのときに名古屋オリンピックの経済効果というものを計算したのが一番最初の経験で、イベントの経済効果に関する調査は、その頃からの付き合いでございます。きょうはそういった経験をもとに、イベントの開催が地域にもたらす効果にはどんなものがあるか、何のためにこういった調査をするのか、あるいは経済効果はどうやって測定するのかといったようなことについて、お話をしたいと思います。
 まず最初に、イベントの開催がもたらす効果には、大きく分けますと、一つが経済波及効果、もう一つが社会影響効果というものがあります。経済波及効果といいますのは、イベントを開催するためにつくられた施設あるいはイベントに訪れた人たちが会場の内外で行った消費と、それによって増えた収入が再び投資や消費に回るという具合に、めぐりめぐってさまざまな分野を潤していくという効果のことを言います。この効果は、後で説明します産業連関表というものを使って、どの産業の生産がどのぐらい増えるかということを計算することができます。
 後の方の社会影響効果といいますのは、例えばイベントを開催しますと、その地域の知名度が全国的に上がります。その結果、そこにある企業の採用活動とか営業活動、こういったものが全国的に展開しやすくなります。また、その地域への企業誘致にもプラスになり、企業立地が進むという効果があらわれます。また市民が外国人に接することに慣れる、そして地域の国際化が進むといったようなことも効果として考えられます。
 この効果は、その次のステップでは、立地した企業がそこで生産を始めることで地域の生産額が増えるという経済効果も出てきます。ただ、どのぐらい経済効果が出てくるかを考えるのはちょっと難しいところがあります。そこで、金額的に計測しやすい部分の効果、イベントの開催に伴って直接金額が計算できる効果、これを経済波及効果と呼び、その他の効果を一括して社会影響効果と呼んでいると考えてもらえばよいかと思います。

1.なぜ効果を計測するのか
(1)自治体の事情
 次に、この効果をなぜ計測するかということについてお話しします。経済効果は、随分以前から計測されています。大阪の万博のときも、開催以前に試算されています。そして、万博が終了した後で改めて計測した結果が、公式報告に掲載されるということです。
 そういった事例があったので、その後開催されたイベントの公式報告では必ず経済効果についてコメントするようになります。初めのうちは「あのイベントの公式報告に出ていたから、この報告でも載せよう」という具合に、行政には前例を踏襲するという習慣がありますので、それで、載せていたという側面も大きかったのではないかと思います。つまり、経済効果は、公式報告書の刺身のつまみたいな扱いだったのではないかと思います。
 大阪の万博のころは、東京ディズニーランドみたいな民間の大規模なレジャー施設が少なく、また万博が国民全体の楽しみの場になり得たということ、それから、日本で初の万博であったということもあって、開催に対して批判的な声というのはほとんど表に出てこなかったのですが、その後、人々の生活が豊かになり、趣味が多様化してくる一方、自治体の財政が悪化する。あるいは環境保護に対する関心が高まるという具合に、行政を取り巻く環境が変化してきます。一方で、各地で同じような内容の地方博が開かれて、博覧会が珍しくなくなってくる。そうなると、公共の資金を使ってこういったイベントを開催することに対して、批判する声も出てくるようになります。赤字の自治体が、一部の人々の楽しみのために公共資金を使うのはおかしいんじゃないかというわけです。
 確かに、開催にあたっての自治体の財政負担は少なくなく、そういう意味で、収支はマイナスになるかもしれません。しかし、博覧会をきっかけに、地元に進出する企業がいくつか出てきて、生産活動を開始すれば、雇用が増え、税収も増える。したがって、長い目で見れば、地域にプラスになるんだということを説明するために、経済効果の測定を利用するようになってきたのではないかと思います。
 デザイン博のときや、愛知県の今回の調査の際には、経済効果を計測するにあたり、税収の増加分についても出してほしいという依頼がありました。これも、そうしたことが背景になっていると思います。また、これらの博覧会では、小学校の社会見学の場として、児童を招待するということをしますが、これも入場者数を少しでも多くして、「こんなに多くの市民・県民がやってきて、イベントを楽しんだ」、「一部の人のニーズにこたえるだけじゃないんだよ」ということを主張する狙いもあると思います。
 なお、愛知県の調査では、国際博の会場の規模とか入場者数といったものが非常に流動的であったため、公式には経済効果を測定したことになっていませんが、「議会では必ず議員さんからそういった質問があるから、手元資料として計算してほしい」という依頼があり、内々では計算をしています。また、このときには、「岐阜県とか三重県などの近隣の県の協力も不可欠なので、これらの県にも、国際博を開催するとメリットがあるということがわかるように、県別の波及効果も計算してほしい」、という依頼もありました。
 こういう具合に、求められた、さまざまな予測値を全部予測するためには、ずいぶん大胆な仮定を置かなければならなくなります。その結果、予測値の信頼性は低くなりますが、それでも目安がほしいと求められました。自治体としては、前例を踏襲していればいいという、気楽な時代から、本気で数値を必要とする時代へと、時代が変わってきたと思います。

(2)イベントの開催の意義…自治体の本音
 それでは、なぜ、そんなことまでして、自治体はイベントを開催しなければならないのでしょう。一応、地域の文化の向上に資するというようなことをイベント開催の意義としてうたっていることが多いと思いますが、これはやはり建前で、本音はやはり地域振興であると思います。
 地域振興のためにこういうイベントを開催した例としてわかりやすいのが、神戸のポートピア、あるいはつくば博です。ポートピアは、ポートアイランドを埋め立てて、これを企業に分譲する際に、そのポートアイランドの知名度を高めるために企画したイベントといえます。つくば博は、そもそもは、筑波学園都市の整備が終了した記念事業として科学博を誘致したものですが、ついでに、当時造成したもののあまり買い手がつかなかった筑波の工業団地の分譲に役立てようという狙いもあります。横浜のみなとみらい21、あるいは富山博、これらもそうした側面をもっています。
 会場やその周辺を工場団地などとして分譲する予定がなくても、イベントをきっかけにインフラが整備できるので、それを今後の地域の振興に役立てようという下心はどこの自治体でも当然持っていると思います。その意味で、イベントの部分だけを取り出して、その収支だけでイベントの是非を判断するのは、自治体には気の毒なような気がします。そして、無理にそのイベントを黒字にしようとすると、デザイン博のときのように備品を協会から市が高値で買い戻すというようなことをして、市長が市民団体から告訴されるというような事態も起きかねません。
 特にデ博は、企業誘致のような、直接的な利益でなく、市のイメージアップという目に見えない効果を求めていたという点で、市民の理解を求めるには難しい面もあったと思います。しかし、市民サイドとしても、市の文化レベルの向上といった、お金だけで計れない、長い目で見た採算性というものに理解を示す、そういったゆとりがあってもいいのではないかと思っています。同じころに北海道や三重県で開催された食と何とやらの博覧会とかいうのは、非常に不人気で、会場は閑古鳥が鳴き、出展した業者が大赤字となって、裁判沙汰になったという記憶がありますが、そういう安易な企画でイベントを開催して発生した赤字とは意味あいが違うと思いますから。それじゃ、どこで線引きするかといわれると、難しいところもありますが。

2.経済波及効果
(1)経済波及効果測定の考え方
 次に、経済波及効果の測定の仕方などについて、お話ししたいと思います。まず、経済波及効果ですが、これには直接効果と誘発効果というものがあります。直接効果というのは、万博のパビリオンの建設費、あるいは開催期間中の会場の職員の人件費、あるいは観客がそこで使った費用とか、そこに来るための交通費、宿泊費、そういった万博が開催されることによって新規に発生する需要(生産)の増加を直接効果といいます。それから、万博を開催するために整備する道路、鉄道、そういった関連する分野での生産の増加もあります。
 デザイン博の場合ですと、白鳥会場の最寄り駅として開業した西高蔵駅の建設費、あるいは日比野駅の改造費用、それから都市高速道路での英文表示、開催期間中にプランターを道路壁に沿って設置した費用。あるいは錦通りの街灯を整備したといったような事業がこれにあたります。
 ただ、これらの事業というのは、もしデ博がなかったとしても、いずれは実現するものも結構あります。特に観客の会場での飲食については、万博がなくても必ず食べるものですから、これを効果に加えるのはおかしいという考え方がわかりやすいかと思います。ただ、そうはいっても東京の人が見に来れば、東京での食事が減って愛知での食事が増えます。そういう意味で全国的に見れば効果はないけれど、愛知県内だけをみれば、効果があるという性格のものといえるかもしれません。また、デ博がなければ、お茶漬けで済ませていた人が、会場に来てステーキを食べた場合には、その差額を効果と考えるべきかもしれせん。ただ、そこまで厳密な作業というのは、普通はしていません。
 今回の万博を例にとりますと、中央線から愛環へ直接乗り入れるための工事というものがります。これなどは、もし万博がなければ絶対にあり得ない工事でしょう。そういう、万博がなければ、まず発生しないものを見つけ出して、それを直接効果に加えていくことが、より正確な効果を測定する上では大事なことです。
 デ博の調査では、こうした事業を把握するために、名古屋市の全部局にアンケートを出して、5年前からデ博が終わり、取り片づけがすむまでの間の、デ博に関する支出について項目ごとに書き出してもらうというようなことをやっています。
 次に誘発効果についてお話します。パビリオンの建設に従事した人、あるいは会場へのシャトルバスの運転手さんなどの収入は、万博がない場合に比べて当然多くなるはずです。収入が増えると、買い物などの消費が増えます。そうすると、その製品をつくる企業の生産が増え、その企業の従業員の給料が増えるというぐあいに効果がどんどん広く、そして薄く広がっていきます。こういった具合に生産が追加的に増えていくものを誘発効果といいます。
 この効果は、広く薄く時間をかけて広がっていき、3〜4年すると大体一段落すると見られます。それを全部合計すると、この地域だけで、当初の投入額の2倍近く、全国では3倍以上に膨らむと試算されます。
 もっともシャトルバスの運転手の給料は、万博がなくて払われます。したがって、時間外手当とか特別手当という形で給料が増えることになるでしょう。そこで、運転手に、幾ら収入が増えましたか、その分で何を買いましたかという具合に調べるかというと、そこまではやっていません。これも、先ほどちょっと言いました産業連関表を使うと、これだけ生産が増えると、これだけ収入が増えるということが計算できます。その結果を利用するということになります。
 このイベントの経済効果は、当然のことながら、開催期間が長くなれば長くなるほど効果が大きくなります。最近、中日ドラゴンズの優勝の経済効果が120億円という記事があったかと思いますが、誘発効果を除いた直接効果は、その半分の60億円ぐらいになると思います。直接効果は、名古屋で試合がある3日間だけの球場内での物販代金、それからこの場合は7戦やることを前提にしていますので、応援団が4試合分福岡まで新幹線で応援に行くという場合の新幹線代、あるいは中日が優勝して、その後でデパートでやる謝恩セールの売り上げ、くらいしかないので、このぐらいの額ということになります。
 一方、デ博は、半年間開催されました。お手元の表1のA欄を見ていただきますと、見出しの真ん中あたりに、入場者の欄があります。下側に愛知県という欄がありますが、これが万博を見に来た人が愛知県内で消費した額を表す欄ですが、これが1,080億円となっています。1日あたりに換算すると、6億円になりますが、それが、半年も続くとこれだけ大きな額になるわけです。
 また、大型映像を見せたパビリオンの費用は、建設費、運営費などをあわせると一つのパビリオン当たり20億円ぐらいかかっています。したがって、この規模のパビリオンを三つぐらい作るだけで、これが中日ドラゴンズが優勝したぐらいの効果になるわけです。
 しかも博覧会の場合には、道路などハードの建設費も加わりますから、経済効果はドラゴンズの優勝とは比べものにならないぐらい大きなものになるわけです。
 そういう意味では、オリンピックもハードの建設費は大きいのですが、開催期間が2週間しかないため、新幹線や首都高をつくった東京オリンピックの時代ならともかく、今は、経済効果としてはオリンピックより、万博の方がずっと大きくなります。


(表1)世界デザイン博の支出主体別生産誘発額
(単位:百万円、%)
直接投資・消費額
生産誘発額
誘発倍率
B÷A
博覧会協会 全国 24,414 78,772 3.23
愛知県 24,414 43,703 1.79
関係自治体・団体 全国 83,270 287,171 3.45
愛知県 82,471 153,485 1.86
パビリオン出展者 全国 22,898 70,723 3.09
愛知県 17,745 30,606 1.72
営業店出展者 全国 9,423 26,572 2.82
愛知県 7,368 11,956 1.62
入場者 全国 145,686 455,495 3.13
愛知県 108,036 196,999 1.82
民間企業 全国 7,412 24,482 3.30
愛知県 7,391 12,992 1.76
博覧会協賛者 全国 15,224 51,239 3.37
愛知県 14,676 27,401 1.87
合計 全国 308,327 994,454 3.23
愛知県 262,101 477,142 1.82
(出典)名古屋市:世界デザイン博の経済効果
(注) 直接投資・消費額は発生年次の名目額、これを平成元年度価格になおした
   上で生産誘発額を計算するので、誘発倍率の値は正式なものではない

(2)経済効果と波及分野の計測…デ博を例に
 それでは、デ博の例を中心に、経済効果はどのように計測するかということにお話を移します。誘発効果、すなわち当初の消費とか投資が最終的にどのぐらい生産を増加させるかということを計測するときには、何回もお話ししましたように産業連関表というものを使います。産業連関表というものは、日本の企業が1年間に何をどれだけ生産したか、その生産に必要な材料をどういった産業からどれぐらい仕入れて、それから人はどれぐらい投入したかということを一つの表にまとめたものです。この表を統計的に処理しますと、ある産業が1単位の生産を増やすと、農業から始まって食品とか化学とか鉄鋼とか、そういった日本の製造業の生産が業種ごとにどれぐらい生産が増えたかということを計算することができます。
 デザイン博の調査では、この最初の消費とか投資の額を確定するためにいろんな関係者に対してアンケートを実施するわけです。初めにお話ししましたように、名古屋市だけではなくて、県下の全部の市町村に対しては、デ博のためにどんなことを、いつ、幾らぐらいやったかということを聞きます。そうすると、道路をつくったとか、地下鉄の駅をつくったとか、シャトルバスのための駐車場をつくったとか、あるいは市町村の日に棒の手を披露するために衣装を調えて、当日はバスを仕立てて弁当も用意した。あるいは常滑焼の猫をつくったというような答えが返ってきます。
 それから、出展企業に対しては、パビリオンの建設費、それから撤去費用、あるいは期間中の職員の延べの投入人数とか光熱費とかパンフレットなどの経費、あるいは来場者に渡したサービス品の品目とか金額、そういうものを聞きます。食堂とか自販機では、売った商品とその金額、それから会場の照明灯とかマンホールのふた、ごみ箱などを寄附した企業には、それらの量と金額というものを尋ねるわけです。
 それから、来場者に対しては、開催期間中に会場内でアンケートを実施します。そして、どこからどんな交通手段を使ってやってきたか。名古屋に何泊して、ついでに寄っていく観光地はどこか。会場内では何を買ったか。名古屋市内では何を買ったか。そういったようなことを質問します。
 それから、夏休みは遠くから来る人が増えます。そうすると、消費するガソリンの量が増えます。平日は地元中心ということで、ガソリンの消費量は減ります。ホテルの売上も増えません。そういうことで、平日と休日、あるいは夏休み中の平日と休日というぐあいに、いろんな観客層の変化を想定して、日を変えてアンケートを実施します。こういったアンケートをして、それを集計することによって、先ほどのナショナルとか住友のパビリオンでは20億円ぐらいかかっていたとか、その20億円のうち建設費が半分で、残りは東京の広告代理店を通じて映像ソフトの使用料を払っている。使用料として消えていってしまうということまでがわかるわけです。そのアンケートを集計した結果が、今のこの表1です。
 博覧会協会は、万博を開催する5年ぐらい前から準備を始めていましたが、そのころからの費用を含めると、全部で244億円の支出があったことを表1は示しています。それから、関係した自治体、これは名古屋市も含めると、愛知県内で825億円、それからパビリオンが県内で177億円、全国で229億円という具合に集計していきます。こうした関係者の支出を合計したものが、A欄の一番下の合計欄の数字です。愛知県では2,621億円、全国では3,083億円の支出があったということになります。こういう調査は、博覧会が始まる前から準備をして、機会があるごとに協力をお願いしていかないと、なかなか協力が得られません。「表には出さないから、きっと答えてくださいよ」とかいうようなことを企業の方にも何回も言っていくわけです。
 実はデ博の1年前の昭和63年に、中部未来博というものが岐阜県で開催されています。このときには博覧会が終わってから、関係者の方が私のところに経済効果の測定の仕方を聞きにこられました。しかし、「自治体とか企業の出展者に関するデータは、後から頼んでも大ざっぱではあれば集めることはできまるかもしれないが、入場者について、どこから来たか、あるいは何日間岐阜に泊まったか、どこをついでに観光していったか、といったことは調べられないので、無理ですよ」という話をしたところ、自分たちだけでやるのは無理だと判断したのでしょう、三菱総研の方に依頼して報告書をつくっています。
 三菱総研はなぜ、アンケートしてなくてもできたかといいますと、ここは、ポートピアの時代からいくつもこういう調査をしています。それで、総入場者数がわかれば、あとはそういった過去の博覧会のデータを使って、入場者の行動パターンを大体読んで、大体の費用を推計することができたということかと思います。
 三菱総研のポートピアの報告書を見ますと、例えば神戸に住んでいる人の全国各地に散らばっている親戚が、そこの家を使ってポートピアを見に行く。そうすると、その家では布団を新調するだろうということで、その額は一体幾らになるかと、そんなところまで推定しています。これはやりすぎという気がしますが、そんな報告書を作っています。
 それから、岐阜の未来博と対照的に事前の準備をしていなかったのに計算ができた例として、岡崎の葵博があります。葵博では入場券の一部に住所・氏名などを書いて出口でポストに入れると、後で抽選をして記念品がもらえるというイベントがありました。入場者全員がそれを書いて入れたわけじゃないんですけれども、結果的には、デ博ような限られた日、限られた時間、限られた人数でやった調査よりもずっと正確な入場者に関するデータが入手できたわけです。
 それから、会場内での物販、飲食店というものは、普通のイベントでは出展料のほかに売り上げの一定歩合を協会の方に納めるというシステムになっています。その結果、売り上げを過少申告をするケースが多いようですが、葵博では出展料を取っただけで、売り上げの歩合納入がありませんでした。その結果、正直な売り上げを教えてもらえたという予期しない効果があって、割と正確な測定ができたようです。
 ついでに、デ博での失敗についてお話しますと、外国人からのアンケートを取り損なったということがあります。アンケートをしていると、声をかけても応じてくれない人がいます。変だなあと最初は思っていたのですが、そのうち、これが東南アジアとか中国とか韓国の人だということがわかってきました。こういう人が意外に多い。そこで、金髪の人を含めて海外から来た人の行動パターンも調査しないといけないなということになりました。そこで5カ国語でアンケート票をつくったのですが、いろいろ手続きもあって、実行できたのが9月に入ってから。9月になると、外国人の入場者数が激減してしまい、ほとんど回収できなかったのです。そもそも日本人か台湾人か、顔を見ただけじゃわからないもので、声をかけるわけにいかない。入り口の看板を見て、わざわざアンケートに答えてくれる外国人はそうはいないので、そういうことで、入場者数に占める外国人の比率、あるいは国籍なんてことは結局わからずじまいだったということになります。

(3)デ博の波及効果
 この世界デザイン博の波及効果を、産業連関表を使って計算した結果が表1のB欄、生産誘発額です。愛知県は全部で4,771億円、全国で9,945億円生産が増加したという結果になりました。これは、当初の支出額に対して全国で3.23倍、愛知県で1.82倍の規模ということになります。この3.23倍とか1.82倍という当初の支出額に対する倍率を誘発倍率といいます。この誘発倍率は、新しい産業連関表がつくられるたびに小さくなっています。最初にお話ししました、昭和56年に名古屋オリンピックの経済効果を試算したころは、全国で4倍、中部で2倍というのが標準でした。表2に比較的最近開催された博覧会の誘発倍率が示してありますが、新しい産業連関表で計算した結果の方が、誘発倍率が低くなっています。


(表2)主要な博覧会における生産誘発倍率(単位:倍)
博覧会名 誘発倍率
ジャパンエキスポ'92(H4、富山) 3.15
国際花と緑の博覧会(H2、大阪) 2.97
花と島の博覧会(H1、広島) 2.99
世界デザイン博(H1、名古屋) 3.21
ぎふ中部未来博(S63、岐阜) 3.67
科学万博(S60、つくば) 3.34
(出典)各公式報告など
(注)1.デザイン博の誘発倍率が表1と異なるのは、表1の注に示した理由による
    2.昭和に開催された博覧会は昭和55年産業連関表を、平成に開催された
     博覧会は昭和60年産業連関表にて計算している


 低くなってきた理由は、高度成長期には、道路や建物をつくるための鉄骨の需要が増えますと、日本の全体の生産能力が足らなかったので、製鉄所の高炉を一基増設するという具合に、新しい設備投資まで起きてきたのですが、今はもう日本の生産能力があり余っているので、設備投資には結びつきません。また、円高で工場を海外に移転してしまった関係で、例えば繊維製品はほとんど、Made in ChinaとかKoreaとかTaiwanとなっているので、いくら人々が買っても、輸入が増えるだけで、日本の生産の増加に結びつきません。こらように、日本の生産構造が変わってきているということが誘発倍率が下がってきた原因として挙げられます。
 次に、この生産誘発額を産業別とか地域別に見たものが表の3です。全国への波及効果を生産誘発額の大きい物から順に見ていきますと、まずその他サービス、それから建設、商業、食料品という順番になります。その他サービスというのは、パビリオンの企画運営をする広告代理店がここに入っている関係で、博覧会というのは広告代理店にとって非常においしい催しであるということがわかるかと思います。それから、建設業、商業、あるいは食料品が多いのは、会場建設とか観客消費、そういったものから考えて当然の結果になるかと思います。

(表3) 産業別、地域別生産誘発額(百万円、%)
愛知県内 全国 全国構成比
農林水産業 4,434 35,139 3.5
鉱業 483 2,930 0.3
食料品 42,889 91,910 9.2
繊維・紙・パルプ・木製品 9,633 38,328 3.9
化学・石油・石炭・窯業製品 11,898 64,963 6.5
鉄鋼・非鉄金属・金属製品 13,763 44,816 4.5
機械 32,585 72,966 7.3
その他の製造工業製品 11,985 33,101 3.3
建設 102,453 107,526 10.8
電気・ガス・水道 13,860 27,549 2.8
商業 64,404 105,025 10.6
金融・保険・不動産 27,775 89,433 9.0
運輸 47,110 86,472 9.7
その他サービス 30,704 176,683 17.8
分類不明 3,166 7,613 0.8
合計 477,142 994,454 100.0
(出典)名古屋市:世界デザイン博の経済効果

 国際博の調査では、経済効果を公表しなかったと言いましたが、パビリオンの数が決まり、会場規模が決まり、また来場者数が大体検討がつく。大体めどが立ってくれば、この表を使えば大体の見当をつけることができます。
 デ博の観客者数はこの場合1,200万人で計算しています。国際博の入場者数は目標では2,500万人ですから、これが達成された場合には個人消費関連の生産は、デ博の倍よりもちょっと強い数字になるという具合に類推していけばよいのです。
 この報告が出たときに、日本開発銀行の名古屋支店がこういった作業をしています。その結果によりますと、経済効果が1兆5,000億円になっています。愛知県下での誘発額が1兆5,000億円としますと、我が国全体では大体その倍になるということですから、3兆円ぐらい。そうしますと、デ博の9,900億円の3倍ぐらいの効果ということになります。2倍の入場者で3倍の効果ということは、それだけハードへの投資が大きいということになります。
 それから、この1,200万人というデ博の人数ですが、デ博は3会場で開催され、公式報告の総入場者数というのは1,500万人となっています。しかし、場内アンケートで、「あなたは今幾つ目の会場にいますか」とか、「幾つの会場を回る予定ですか」ということを聞き、その結果から実質的な入場者数が1,200万人と推定した経緯があります。
 東北から来た人が入場者の1%ということがわかった場合、1,500万人の1%なら15万人、1,200万人の1%であれば12万人ということで、3万人分の宿泊費とか、ガソリン代となどを過大推計してしまう可能性があるからです。瀬戸の万博も2会場で分散開催することになりますと、経済効果を測定する場合には、こういったそういう観客の行動パターンについても調査する必要が出てくることになります。

(4)博覧会を地域の振興、個人の事業拡大に利用する際の留意点
 次に、博覧会を地域の振興や個人の事業拡大に利用する際の留意点について、お話ししたいと思います。
 第1に注意すべきことは、デザイン博では松下館レベルのパビリオンで約20億円かかっていると言いましたが、その費用の大部分を占める映像ソフトの使用料は、大部分が東京の広告代理店経由で、海外に持っていかれてしまい、愛知県への歩留まりはほとんどなかったということです。この地域は産業技術の中枢圏域としての道を追求することになっていますが、こうした弱点を抱えたまま21世紀もやっていくつもりなのかということが気になります。こういう流出を万博のときの一時的な問題としてとらえるのか、あるいは地域の産業構造の課題としてとらえるのか。これについては、改めて、ゆっくり議論する必要があると思います。
 第2は窯業土石企業への波及効果が大きいという計算結果が出ている点ですが、これは道路とか会場建物などに用いるセメントの量が多いということで、直接陶磁器業界へ来る注文の増加はあまり期待できないのではないかと思います。
 第3は期間限定の効果であるということです。道路や建物の工事というの万博開催まで集中的に行われますけが、万博が始まるころにはほとんど終了してしまいます。それどころか翌年以降は反動減が起きる可能性もあります。東京オリンピックのときには、突貫工事でつくった


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TOPNGU EXPO2005研究第2号(目次)U.万博か地域にもたらす社会・経済効果>ディスカッション
【ディスカッション】 万博が地域にもたらす社会・経済効果
名古屋学院大学商学部
名古屋学院大学経済学部
名古屋学院大学経済学部
(司 会) 名古屋学院大学経済学部
 三井 哲
 小井川広志
 伊澤 俊泰
 小林 甲一

○司会 三井さん、どうもありがとうございました。
 紹介がありましたように、これまでの緻密な、特にデザイン博を中心とした緻密な経済効果に関する計測に基づきまして、今後、国際博覧会を開催していくうえでの留意点であるとか、あるいは期待される経済効果についてご説明がございました。一応1時間にわたってお話を聞いていただきまして、多少皆さんもお疲れのこととは思うんですけれども、せっかく今、われわれの頭のなかにその内容が残っているうちに少し議論を深めていきたいと思います。
 まず、先ほどのスケジュールに従いまして、小井川さんから今の三井さんのご報告についてコメント、それからご質問等をいただければというふうに思います。よろしくお願いします。

○小井川 ただいまご紹介にあずかりました、経済学部で国際経済学と開発経済学というものを教えております小井川と申します。
 開発経済学と申しましても地域開発ではなくて、アジアの方の経済発展の問題を取り上げておりますので、特にこちらの方面で非常にノウハウをたくさん積まれております三井先生に対してコメントするには、なかなか力不足ではあるんですけれども、そのなかから私からいくつか気づいた点を述べさせていただきたいと思います。
 今の三井先生のお話、非常に細かいところまで、私どものような素人からすると非常に細かいところまで説明していただいて大変おもしろく聞かせていただいたんですが、大きくまとめるとこんなことじゃないかなというふうに私は今の話を総括させてもらいました。私の主観も含まれていますけれども。
 その1つは、どうも経済効果云々というのは、そもそも測るのは技術的に難しいということです。それには非常に恣意的な仮定を入れたりですとか、かなり細かいアンケート調査などのリサーチを行って、はじめてある程度もやっとした数字が出てくるというふうに解釈させてもらいました。
 それじゃあ何のためにそんな手間のかかることをするのか。これは基本的には地域にどのくらいこぼれ落ちるお金が入りそうですよという、あくまで正当化のために行うというふうに紹介していただいたと解釈しております。つまり、例えば万博なり、あるいはそういう形のイベントがこちらで開催されると、工事ですとか、あるいは騒音ですとか、ごみですとか、いろんな負担は残るんですが、しかし、皆さん全体としてこれだけ儲かるからいいじゃないですかという正当化に使われてきたきらいがあるわけですね。そういう点を紹介していただいたというふうに思います。
 ところが、この三井先生の今のお話のなかにはいくつか示唆に富む点があったと思います。1つは、その量そのものがあやふやなものなのだ、測定結果そのものにかなり恣意性が入るんですよというお話と、そしてもう1つ、驚くべき事実はその効果がどうもあやふやな数字ではあるけれども、傾向的に年々低下しているのだということであります。
 三井先生はその辺に主観を挟まれるをあえて避けられているようではございますけれども、どうも三井先生のメッセージからいたしますと、あまり経済効果云々と言うのは、もうそろそろやめにしないかという気が三井先生のお話を伺って私は意識しました。
 最後の方に三井先生は、われわれがこれからなすべきこと、いろいろな話を箇条書きにして説明してもらいましたね。たとえば、我々から情報発信していこう。情報発信の拠点となっていこう。あるいは自然との共生というかたちで新しい将来の、未来のライフスタイルを探していこう。あるいは、国際的な相互理解の場に万博がなればいいのではないかという、いろんなアイデアを出していただきましたけれども、これはもう明らかですけれども、経済効果云々とは全然次元の違う、もっとわれわれができる草の根の話ですね。そう考えていきますとやっぱり経済効果云々であれこれ騒ぐのは好ましくないのではないかという気が、三井先生のお話からいたしました。
 さらに、蛇足になりますけれども、たとえば大阪ですとか筑波ですとか富山、これは、もちろん開催には経済効果云々という正当性が付与されたにしても、もし結果的に成功したとすればこれはそういうことではなくて地域が主体的に地域の魅力を高めた結果、たとえば筑波に工業団地が来たでありますとか、3Kの富山のイメージが払拭されたというふうな経済効果であらかじめ想定されたものではなかったというふうに考えていいかと思います。もっと長期的な、イメージ的なもので地域の活性化が図られたのではないかなというふうに、私は三井先生の話を受け取りました。ただし若干、だとすると、私の専門の、特にアジア経済の観点から見ると、いくつかやや心もとないと言いますか、大きな課題があるかと思います。
 大きく2つをここで指摘したいと思いますけれども、1つは何しろわれわれがこの地域の魅力を高めたとしても、いろんな人に来てもらわなきゃ困ります。日本国内はもとより海外にこの地域というのは非常に魅力的な地域ですよ、日本の名古屋地域というのは自然との共生でこれだけ進んでいるんですよ、あるいは進もうと努力しているんですよというアピールをするとしても、アジア地域に一たん目を転じますと、どういう状況になっているかと言うと、ものすごい非常に激しい観光客の奪い合い競争をやっています。
 一例をあげますと、たとえば台湾、マレーシア、韓国。韓国は最近、金大中がテレビに出てきて韓国に来てくださいとアピールしていますけれども、あれと同じようなことが盛んにおこなわれていますし、さらには非常にいいニュースか悪いニュースかわかりませんけれども、同じ2005年に香港にディズニーランドがオープンします。これを考えますと、自然との共生というテーマで確かに未来の先取りではあるんですが、こういう哲学的なテーマよりはおもしろおかしいディズニーランドに流れる人の方が多いんじゃないかという気がいたします。ほかにいろいろと不安材料はあるんですけれども、時間の都合で…。
 こうしていきますと、1つはそういうかたちでどう域外にアピールしていくか。万博の計画にはどちらかというと経済効果の話が多くて、国際競争という面がちょっと欠落しているような気がいたします。
 2点目といたしまして、観光客に来てもらう大前提となります地域をどう魅力的にアピールしていくか。これについては、名古屋そのものはかなり観光資源としてのアピールの弱い地域じゃないかなという気がいたします。さきほど名古屋と長野を間違えられたと言いましたけれども、たとえばアジアの街角を歩いてみてください。小さい旅行代理店がたくさんありますけれども、見ていただくとわかると思いますが、名古屋ツアーというのはほとんど組まれていないんですよ。一番人気があるのはもちろん東京ですね。これはディズニーランドがあるからですけれども。次に、大阪・京都がひとくくりになっているやつ。次に人気があるのは札幌。冬に行くと雪が見られるからとアジアの人は喜んで行くんですね。もうこの辺で終わりかなと思うと九州とかも結構人気があるんですよ。これは飛行機の便数が多くて、近くて安くて手軽に日本をエンジョイできるかなという気がするんですが、名古屋というツアーはほとんどないんですね。
 そういう点から考えますと、非常に地域的な魅力に、もちろん万博をきっかけに高めていけばいいとは思うんですけれども、今のところそういう点で非常に乏しい。あるいは万博という目玉でもし来ていただいたとしても、たとえば、この瀬戸を外国の観光客の人が歩いていただいたらどういうことになるか。もちろん大嫌いになると思いますね。トラックの粉じんで汚れまくって帰る。何なんだここはと。もう道幅も狭いですね。非常に車優先の道幅です。
 こういうことを考えていきますと、まずアピールがうまくいくのかどうかという点と、来てもらったとしても気に入ってもらえて、本当に名古屋というのはあまり知らなかったけれども、いい所だったという点で印象に残ってもらえるのかどうか。別の意味で印象に残っちゃうんじゃないかなという気がいたします。
 新しい空港が常滑沖にできますけれども、たとえば、今のあそこの名古屋空港からここに、愛知万博に観光客に来てもらったって、これはものすごい苦労ですよ。バスを乗り継いで、案内も全然ない。非常にバスの本数も少ない。これはほかのアジアの国々の空港から比べて見ますと、非常に不便さを実感するかと思いますね。そういう点で、もちろん「共生」という中身も大切ですが、そういうインフラの面でどう魅力をアピールしていくかという点で、既にマイナスのところからスタートしていると思います。経済効果云々、もちろんこれにかかってくると思いますけれども、少し議論する必要があるのではないかというふうに感じております。
 ちょっと三井先生の話とは大きく広げすぎたきらいがあるかと思いますけれども、大体感覚としてはこんなところです。あと、フロアの方の意見をお願いしたいと思います。以上です。

○司会 どうもありがとうございました。多少三井さんの講演の内容を超えたような話もありましたけれども、いつも世界を歩いている小井川君らしいコメントだったと思います。では、三井さんの方から何かございましたらお話しいただけないでしょうか。

○三井 確かに経済効果で正当化する時代ではなくなっているかもしれません。それはそれとして、ただインフラの整備とか、そういうイベントを誘致することによって、その地域がほかの地域に先じて整備が進むという意味で、開催する意義というものはあるでしょう。ただ、それをどれだけ前面に押し出して、「だから誘致しよう」と一般の人々みんなの賛同を得るための新たな指標を開発しないと難しいのかなと思います。今までは経済効果だけでうまくいっていたんだけど、これからは、何か新しいものを開発する必要があるのだと思います。
 シンクタンクは、経済効果の調査需要がなくなると、商売あがったりですから、そういう意味で、シンクタンクが何か新しいものを考えるかもしれません。
 それから今の話を聞いていて思ったのは、やはり、海外から来た人を中心に瀬戸を気に入ってもらうための仕組みづくりを、ちょっと真剣に考えないとこれは大変だなあということを感じました。

○司会 どうもありがとうございました。今、小井川さんのコメントの内容というのは、また今後地域政策とか博覧会計画等で公開ワークショップをやっていきますけれども、そういったなかでも少し深めていける内容ではなかったかというふうに思います。引き続き、先ほどご紹介しました伊沢さんの方からコメントをいただければというふうに思います。

○伊沢 ご紹介にあずかりました伊沢と申します。隣の小井川先生と同じく国際経済学を中心に専攻しておりまして、学生の皆さんに教えているわけですけれども、そういう観点がありまして、私自身にとりましてもこういう大きなイベントの経済効果をどのようにはかるのかということに関しては、私自身非常に不明確な部分が多いものですから、今、非常に詳しい三井さんからの報告をいただいたうえで、果たして妥当なコメントになるかどうかわからないのですが、いくつか考えていることを述べたいと思います。
 まず、1つなんですが、先ほど報告の最後の方で経済効果をいううえではいいことをいろいろ出していくわけですけれども、悪いものもある。排気ガスであるとか、地価が上がったり、あるいは週末の道路等の混雑現象とか、先ほどの小井川先生のお話ともちょっと重なってくるんですけれども、経済効果としてトータルの消費、投資としてこれだけのものがあって、それが数倍の誘発を生むという、プラスの面の数値をどうしてもこういうイベントに関してはあげていくことが多いとは思うんですけれども、実際はそういう意味でマイナスの面もある。地域の住民が負担していかなきゃならないような混雑現象によるロスの部分。そういったものを差し引き、ネットの計算ということをある程度意識していくうえで経済効果というのを言わないと、今の人々の価値観が多様化しているなかで、単に行け行けどんどんの経済効果が膨らんでいく部分だけではなくて、もっと身近な部分に目をやって、人々からすればその経済効果のプラスとマイナスというのをはっきり示したうえでトータルでどれぐらいなのかと、そういうことをある程度言わなければ説得力を持たないだろう。もちろん、それでプラスの部分も多いとは思うんですけれども、もちろんそれがすべてを規定するわけではないと思います。
 先ほど、じゃあその経済効果の誘発の効果、一時的な最初の効果がどれぐらいの影響をもたらすかということですが、大体4倍ぐらいから徐々に低落傾向にあるというお話でした。ちょうどこの資料にも出ています主な博覧会の生産の誘発倍率というのは、大体3倍前後で出ているわけですけれども、日本でこういう博覧会が開かれた時期というのは、比較的好景気の時期が多いわけでして、比較的人々の消費性向も高かったのではないか。そういうなかで、あるいは人々の投資に関しても先行きを非常に明るく持っていた時期なわけです。現在不況のなかにあるわけですけれども、2005年にはもっと景気がよくなるのかもしれませんが、現在非常にある意味では下を向いて非常に悲観的に予測を立ててるなかで、この博覧会に向けての投資規模とか、そういうものに関してこれまでと大きく誘発倍率を考えるうえで、構造的に変化が出てきているんじゃないか。そんなような気がいたしました。
 そういうことを考えましたのはほかにも理由がありまして、今回の愛知万博に関しまして、国際博に関しまして、入場予想人数というのを大体2,500万と見積もっているわけですね。過去の博覧会の入場人数というのを見てみましたら、1970年の大阪万博のときというのは、大体初めは予想が3,000万ぐらいだったそうですけれども、延べで6,000万を超える人々が来た。つくば博が約2,000万人。大阪の花博のときが2,300万ぐらいですかね。というようなかたちで大体半年間の期間で博覧会というのは開かれるわけですけれども、今回のそういう見込み、予測を立てる上での2,500万という数字が、ある意味では過去の傾向にのったうえで推計されているのに過ぎないんじゃないか。そういう気が若干するわけです。
 といいますのは、かつて昔に比べても先ほどの小井川先生のお話にもありましたけれども、価値観も多様化しているなかで、余暇の過ごし方、あるいはたとえば博覧会に休日遊びに行く、休日どこかに行くというときに選択肢がたくさん増えてきたわけです。そういうなかで、同じように愛知博が従来どおりの集客能力を持っていけるかということに、若干不安な気分というのがないことはありません。そういう部分が、実際、計測されるときにどういうふうに参考にするのか、ということがちょっと知りたい気がいたしました。実際に計測するときというのは、終わった後に実際の人数を出して計測するわけですけれども、ある程度事前にどれぐらいの効果があるかということをもし考える場合に、そういう集客人数等に関してどういうような予測を立てられるのだろうかということが1つ興味を持っていることです。
 もう1つなんですけれども、愛知万博がもたらされて、その後にどういうものが残っていくかということに関しまして、私自身、特に愛知博に関して非常に関心があるわけです。その経済的な面に関して1つ興味を持っていることというのは、博覧会の後にこの跡地があいち学術研究開発ゾーンの一角を占めるというかたちで、科学技術交流センターというものをつくっていく。そういうなかで、産官学の研究開発、あるいは製品化といった部分の交流研究を深めていく、そういう場所に愛知東部丘陵をしていこうという案があるわけです。
 先ほど三井先生の方からも新しい中部をつくるうえで、東海リサーチ・リンケージ、つまり鈴鹿山麓の研究学園都市の構想、あるいは東濃の研究学園都市の構想、そういうものと結んだかたちでの総合研究交流を深めていく。そのうえで、製造業、産業の活発化を促していこうということが考えられるわけですね。愛知万博によって多くの企業、人々が東部丘陵に集まってくることによって、この地域の立地条件というものが気に入れば、こういう所に新しい産業を立地しようとか、そういう動きが出てくる。結果として、愛知の産業構造というものに大きな影響を与えるかもしれない。
 そういう意味での期待ができるわけなんですけれども、ただ私自身、この愛知の産業と研究開発という部分に関しまして、いろいろ聞いてきたことで気になることというのは、特に愛知県の場合、東京とか大阪に比べますと、産官学という、産業あるいは学界、あるいは自治体といった部門の連携が比較的弱い。新しい技術を産業化していく、商品化していく動きというのが比較的おとなしい。じゃあ技術はないのかというと、非常にすばらしい技術を持っている。あるいは非常にすばらしい生産技術を持っている企業なり研究者がたくさんいるわけです。
 そういう愛知において、なぜ、たとえばそういう動きがおとなしいのかということに対して、よく言われることは、そういう産官学のお互いのニーズを結びつけ合うコーディネーター、仲介者の役割を果たすものが少ない。つまり、一種のサービス業ですね。この愛知県にはそういう産官学のそれぞれのニーズをお見合いさせる部分がおざなりになってきたのじゃないか。そういうなかで、たとえハコものとして非常に立派な科学技術の交流センターができる。あるいは学園都市の構想ができたとしても、結果的にその間の有機的なつながりというのを生むうえで、十分仲介の役を働くだけのコーディネーターの部分というのが、比較的この愛知県というのは弱いのではないか。それでは、結果として、せっかく愛知県において新産業をつくっていくといううえでの構想において十分効果を発揮しえないのじゃないか。だからそういう部分で博覧会にかけて盛り上げていって、その後、さらに博覧会を開いたことが愛知に大きくプラスの影響をもたらしていくためには、そういう部分、単によいものをつくるハードの部分だけではなくて、お互いをつなぐサービス業といいますか、サービスの部分、そういうコーディネーターのような役割を重視していく、育てていくということが必要ではないかという気がいたしました。
 以上、いくつか述べさせていただきまして、ちょっとまた話が広がった部分もあるとは思うんですけれども、私自身感じていること、および今の三井先生の報告に関して感じたことを述べさせていただきました。

○司会 どうもありがとうございました。マイナスの効果であるとか、あるいは今後の日本経済の動きと愛知万博との関連でありますとか、それから学術研究ゾーンといった、今、いろいろあったと思うんですけれども、三井さん、すべて答えるのはなかなか難しいと思うのですが、よろしくお願いいたします。

○三井 まずネットの経済効果の話ですが、これは従来から公共工事、たとえば地下鉄をつくるときなどには、必ず費用便益分析というものをやり、つくるためのコスト、それからつくったことによって得られる便益、どっちが大きいかを計算して比べ、便益の方が大きければ、それじゃあ工事をやりましょうという具合に決めるということになっています。
 そういう意味で、万博は、日本人があまり楽しむものがなかった時代に、やること自体に意義があるということで、あくまでも博覧会を開催することが前提のうえで、ついでに景気づけに経済効果を計算したというのがそもそもの出発点だと思うんですね。だから、マイナスの効果については、それほど考えていなかったと思います。ただ、こういう時代になってくると、やはり一般の公共工事と同じように、公費を使うものである以上、費用便益分析みたいなこともやらなければならなくなってきたのかな、という感じを今お話を聞いていて思いました。
 それから、これは私の記憶違いだったかもしれませんけれども、「大阪万博の入場者6,000万人に対して、つくば博は会場の規模が3分の1だから入場者数2,000万でいこう」という具合に、適当に入場者数を想定して準備をすすめてきたら、その通りになったというような話をかつて聞いたことがあるような気がします。これから考えると、昔は、入場者数もあまり重要な問題ではなかったということかと思います。このあたりも含めて、近年、博覧会をするためには、いろいろと厳しく追及されて、大変なことになってきているようでして、そういうことも含めて、「大変だな」というのが実感です。

○司会 どうもありがとうございました。
 私の方から1つ、3人の方に聞いてみたいことがあるんですけれども、私の関心であるだけでなく、多分、皆様の関心のなかにもあると思うんですけれども、最近の国際博覧会をめぐる動きとしまして大きな変更がおこなわれました。といいますのは、いわゆる広域開催、分散開催が決定した。それによって、会場基本計画も当然変わってきますし、それからその他の関連事業もどの程度かまだわかりませんが、変更されるだろうというふうに思われます。こういった大きな修正、変更がこれまで測定とか予測というのはなかなか難しいわけですけれども、そういう意味での経済全体、たとえば愛知県とかあるいは中部圏全体に及ぼす経済効果の観点から見てどうなったのか。
 それから特に、先ほど三井さんのご報告のなかでも瀬戸について若干のコメントがあったわけですけれども、この瀬戸の周辺地域にどのような経済効果、期待された経済効果があったんだけれども、それがなくなってしまったとか、あるいはそれが分散化されてどうなったのかといったあたり、そもそも現時点で効果自体を測定するのは難しいわけですが、心証的にでも構わないのですけれども、そのあたりはいかがでしょうか。まず、三井さんからお話ししていただければありがたいんですけれども。

○三井 結局、青少年公園が会場になりますと、どうしても長久手からのアクセスが優先されるかたちになって、海上の森だけでやるときに比べると瀬戸からのアクセスの充実度が弱くなるだろうなというのが率直な感想です。そういう意味で、瀬戸にとっては効果が小さくなる方向、いろんな意味で効果が小さくなる可能性が強くなったなという感じです。

○司会 どうもありがとうございました。その点に関連しまして、先ほど小井川さんにもう少し地域のイメージアップとか、あるいは観光客集客能力というのをもう少し付けなくちゃいけないという点から、今、三井さんの方から少し、より一層難しくなったというような話もあったわけですけれども、小井川さんの視点から見ると、そういうマイナス面をどうすれば克服できる、あるいは少しでも少なくできるかというところをちょっとしゃべれたらしゃべってもらいたいんですけれども。

○小井川 分散開催について触れなくてもよろしいんですか。

○司会 どうぞ。

○小井川 分散開催とも関係があるんですけれども、分散開催についてはあまり自分自身勉強してないからかもしれませんが、あまり気にしてないんですね。何でかというと、どのみち会場の規模、あるいはどんなに集約しても万博そのものではとても魅力的にならないというのが僕の考えです。やっぱりかなり広域的にこの地域の魅力を結集して、もちろん万博をコアにですけれども、そうしないと、やはりいろんな意味で国内的にも対外的にもとてもアピールできないと思います。そういう点ではいろいろテクニカルな問題があると思いますね。お金がかかるようになったとか、今までの計画はどう変えるかとか、そういう分散開催に伴う問題があるかと思いますけれども、要するにわれわれはどうやっていくかという話ですから、じゃあハコに合わせて中身を充実させましょうという話になるかと思います。
 先ほど少しネガティブな話ばかりしましたけれども、実はかなり広めて、万博を契機にこの地域のアピールをしていくことについては、たとえば後ろ側には非常に豊富な観光資源等がありますし、名古屋の人はすごく親切ですから、そういう点をいろいろと統合していきますと、十分今まで知られなかったけれどもこの地域というのはおもしろいんですよ、日本のよさが残ってますよというアピールをする潜在力はすごくあると思います。それは、またおいおい僕自身も詰めなきゃいけないところあると思いますけれども、そういう点からもう一度万博をとらえ直したらどうかなというのが僕の問題提起です。以上です。

○司会 同じ質問なんですけれども、伊沢さんはどう思いますか。

○伊沢 分散開催ということになったことで、瀬戸への経済的な影響という点に関して言いますと、私自身も先ほど三井さんが言われたように、瀬戸から長久手よりのアクセスというかたちがどちらかというとメインになってしまうということになって、マイナス部分は大きいだろうなという気はします。
 それと、万博全体ということで言うならば、青少年公園がもう1つの会場になった。私も子供連れで青少年公園に遊びに行ったりすることがあるんですけれども、わりと日常的に県民のレクリエーションの場になっているところが会場になるということと、比較的車が主ですけれども、アクセスが確保されているところですから、いろいろと集客のうえで都合のいい部分があるとは思います。しかし、ある程度でき上がってしまった公園というか環境を会場として「自然の叡智」というテーマで万博をやっていくわけですけれども、その部分が若干弱くならないかなという点でちょっと気になるところはあります。それが、万博自体のムードに水を差さなければいいなという気がします。
 瀬戸への影響ということで言いますと、さっき言ったようにどうしても長久手から青少年公園、そして海上の森という線でのつながりになってきて、そこからさらに北上して面で瀬戸の方に流れていくという部分が弱くなってくる。これは瀬戸の経済的な振興ということを考えるうえでは、いい意味で試練に立ったんじゃないかと。要するに前は瀬戸の海上の森だけが会場でというかたちで、ある程度黙っていても来るかな、瀬戸へ寄ってくれるかなという当てがあったのが、その人たちが来ないかもしれないとなると、何とかその流れを呼び寄せるものを瀬戸のなかでつくっていかなきゃいけないというようにその部分をバネにして、逆バネにして、プラスの方向に発想を変えていく。
 世界陶芸村という構想もあるようですけれども、その世界陶芸村の関連施設、関連イベントを尾張瀬戸の方にずっと引っ張って、人を呼び込んでいく。そういう構想、まだ具体的にどういうものになるかということがはっきりは見えていないんですけれども、逆にそういう青少年公園という大きな会場があらわれたことで、よりなおのこと瀬戸を、1,300年陶器をつくってきたこの伝統の町を見せなきゃいけない。人を引っ張ろうという意識が市民のなかで盛り上がる。その部分を考えると、むしろプラスの部分も多少あるのではないかという気がします。

○司会 もう1点ございまして、先ほどのお3人のお話のなかでも幾つか出てきたんですけれども、三井さんの用語とは少し変わるんですが、長期的な効果と申しますか、たとえば伊沢さんが強調された学術研究ゾーンと研究開発、それからインフラ整備とか、それからお話にはなかったんですけれども、跡地利用の問題で新住構想の話もありますし、少し長期的な視点に立った経済、あるいはもう少し広い社会効果といいますか、そういった点で、もしご報告に補足するような内容がございましたら、まず最初に三井さんにお話しいただきたいんですが。

○三井 新住構想のお話はするのを忘れましたが、そういったものも含めて地域の発展ということを計画されているわけで、あくまでもその起爆剤としての万博と位置づける。そういう意味では、先ほどは里山の整備という言いましたけれども、全体の都市づくりをうまく実現してほしいなという感じですね。

○司会 あとインフラ整備とか、学術研究ゾーンについて何かございますか。

○三井 特に付け加えることはありません。

○司会 では小井川さん。

○小井川 たびたびすみません。やはり何と言ってもいろんな意味でこの地域が魅力的になって、それが全世界に、あるいは日本中はもちろんですけれども、世界的に知ってもらうことによってこの地域の潜在的な魅力を広めていく。これはもちろん長期的な効果です。そのためにはいろんなサポートが必要なんですけれども、先ほど言いましたようにインフラを非常に効率よくするでありますとか、いろんなかたちで地域の魅力を高める支援をしていく。これは方向性が合ってます。つまり、短期的なやるべきことと長期的な効果というものが合致していますが、問題はそれがあまり相入れないところであって、たとえば長期的に望まれることであっても、短期的にはそれができないようなこと。国際交流の推進ですとか、あるいはこのあたりに英語の看板をいっぱいつけるのは、これは長期的な意味でいろんな人に見てもらうのにはいいんですけれども、お金がかかります。それに果たしてきちっとお金がつくのかどうか。そういう長期的な目的と短期的な目的のずれるところで問題が生じるかなという気がいたします。ただし、それは非常にマイナーだと思います、愛知万博に関しては。やはり長期的な目標、地域の活性化、イメージアップ等々を目標にしていけば、かなり短期的な目標もついてくるのではないか。もちろんインフラもそれに入りますけれども。以上です。

○司会 では伊沢さん、手短にお願いします。

○伊沢 先ほど研究開発ゾーンの絡みでお話したんですけれども、愛知県というのは製造業が非常に強くて、製造品の出荷額というのが20年連続日本一という、非常に製造業のメッカみたいな土地なわけなんです。日本経済全体で考えたときに、製造業がさらに強くなるとか、さらに雇用を拡大していくというのはかなり難しい時期に来ているんじゃないか。そういうときにおいて、じゃあ何が拡大していくんだといったら比較的高度な知識集約的な情報サービスとか、そういうサービス産業をこれから育てていかなきゃいけない。愛知において万博後、万博によってたくさんの人をここに寄せて、この土地の魅力や立地条件のよさとかそういったものを知ってもらったうえで、ここに研究者なり、技術者なり、企業なりが集まってくる。
 そのときに、今度は、製造業のメッカの愛知だからこそ、新しい産業、ある意味では製造業に頼らないでもやっていけるような部分。今までどちらかと言えば愛知県の産業のなかでは弱かった部分。そういうソフトやサービスとか、三井先生の報告にもありますけれども、そういう部分の産業育成に目を向けてもらいたいなと。そうすることでまず製造業のメッカの愛知からある意味では変革を伝えていく。そのうえでの可能性がいろいろあると思うんですね。
 この愛知県の周辺だけでたくさんの研究、学園都市の構想があり、技術者・研究者が集まっていて、根っことなる、核になる部分というのはかなり集まってきている。これをやっぱり生かさない手はない。そのきっかけとして愛知万博というのが人々をこの地域に目を向けさせる。今までは名古屋を通り過ぎて大阪へ行ってしまった人、東京へ行ってしまった人をとめ置く魅力的な場所ではないか。実際、東京や大阪より住むには非常に土地も広いですし、緑も多いですし、生活環境という点では非常に魅力的なところでもありますから、そういうところにたくさんの人や物が集まってくる。その起爆剤になるのはないかというふうに考えています。

○司会 どうもありがとうございました。今回、ワークショップというかたちで設定させていただいたのは、ぜひともこういう設定ではお話しづらいかもしれませんが、皆様からもご発言なり、ご質問なりをいただきたいということがあったわけなんですけれども、残された時間はそれに費やしたいと思うのですが、フロアからご質問、ご発言等ございます方は挙手をしていただいて、マイクを持ってまいりますので、マイクを受け取った後、お名前を最初に言っていただいて、お話をいただければと思います。どなたかご発言、ご質問等ございますでしょうか。特にはないようですので、次回既に皆様方パンフレットを見ていただいているとは思うんですけれども、「地域政策」が12月16日に同じ時間から同じ場所で開催されます。これは「博覧会よりもまちづくりを」というテーマで、この地域のことをよく知っておられる地域問題研究所の松村さんという方にお話をいただきまして、今回と同じようなかたちでお話を進めていきたいと思います。それから年が明けまして、第3回は「博覧会計画」ということで、博覧会開催に関して、「博覧会イメージと瀬戸のまちづくり」ということで、本学経済学部教授の木村さんからお話いただこうかというふうに考えております。
 きょうは「地域経済」ということをテーマにしまして、博覧会が開催された場合の経済効果に焦点を絞ってお話をしてまいりました。私どもは私どもなりにこの経済効果に興味を持っていまして、今後、どういうかたちで博覧会開催に向けて、それからその後、この効果をどういうふうに測っていくのか、今、考えている最中なんですけれども、そういった点では非常に参考になったというふうに考えております。
 そろそろ時間に近づいてまいりましたので、今回の公開ワークショップはこのあたりで終わりにしたいというふうに思います。本日は、長時間にわたりまして、本当にどうも皆さんありがとうございました。




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