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巻頭言:地域を生かす博覧会とは
プロジェクト研究代表  小林 甲一
名古屋学院大学経済学部
 EXPO2005の開催まで残された時間はそれほど多くないなか、これまで問題となってきた会場計画がほぼ確定し、その基本計画は急速に具体化されつつある。これまでの「愛知万博」は、その過程のなかで「愛・地球博」へと衣替えをした。「自然の叡智」は、テーマ展開として「宇宙、生命と情報」、「人生の“わざ”と智恵」、そして「循環型社会」へ、さらに事業コンセプトとして「地球大交流」が登場。国際博=グローバル博としては当然のことであろうが、その具体化が進めば進むほど「開催地域にとって博覧会とは何か」という視点がしだいに稀薄になってくるように映る。この地域は、ただ催事や運営に参加をし、地域間交流をするだけで、あるいは、関連イベントを企画し、市民参加をし、来場者へのおもてなしをするだけでよいのだろうか。時代は“グローカル”。グローバルはたちまちローカルであり、ローカルはそのままグローバルである。地域の視点から「愛・地球博」を開催する。「愛・地域博」としてのEXPO2005はいったいどのような博覧会になるのであろうか。その具体像は、まだ見えてこないが、今後に期待したい。
 21世紀最初の年であった2001年度、わが国では、7月から11月までのあいだに3つの地域(福島県・山口県・北九州市)でジャパンエキスポが同時に開催された。この博覧会は、第1回の富山博(1992年)以来、いわゆる「地方博」の代表としての道を歩んできたが、「今や博覧会開催による地域活性化の時代でもない」という流れのなかで、その趣旨や開催効果についてさまざまな論議を呼んできた。今回の“ジャパンエキスポ2001”も、まさに「地域が主体となり、地域の特性を生かしながら地域の発展のために開催された博覧会」であった。これらの博覧会と関連事業が成功であったのかどうか、あるいはその地域にどのような効果を及ぼしたかといった本質的な問題について、今すぐに評価を下すことにそれほどの意味があるとは思われない。ただ、わが国における地域の現状や課題を念頭に「博覧会の開催とは何か」について考えるよい機会となったといえるだろう。
 開催地域にとって博覧会とは何か。こうした問いかけを常におこない、地域の視点から愛・地球博の開催を見守っていくことは今後も重要であるが、この問いに適当な答えを出すのは正直言って難しい。むしろ、今後必要なのは、「地域を生かす博覧会とはどのようものか」という視点であろう。その意味では、各周辺地域にはその地域なりの愛・地球博があっていいはずだ。地域の営みは、本来、長期間変わらずに営々と続いていくことにその存在理由があるが、これを機に地域づくりのあり方を根本から考え直してみることも決して意味のないことではないだろう。


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T.ジャパンエキスポ2001調査報告

1.ジャパンエキスポ2001と地域づくり 3.アンケート調査表
2.開催効果アンケート調査の概要 4.アンケート調査の結果について


TOP>NGU EXPO2005研究>第4号(目次)>T.ジャパンエキスポ2001調査報告>1.ジャパンエキスポ2001と地域づくり
1.ジャパンエキスポ2001と地域づくり
プロジェクト研究代表 小林甲一

(1)はじめに
 巻頭言でも触れたように、2001年度、わが国では、7月から11月までのあいだに3つの地域(福島県・山口県・北九州市)でジャパンエキスポが同時に開催された。ジャパンエキスポは、まさに「地域が主体となり、地域の特性を生かしながら地域の発展のために開催された博覧会」であり、それぞれに「地域づくり」の構想を掲げて開催され、またその地域にさまざまな開催効果をもたらすものと考えられている。とはいえ、博覧会の開催によって地域が活性化できるかといった疑問が指摘されるなか、ジャパンエキスポ2001はどのような「地域づくり」を展開するのか、あるいはその地域にどのような開催効果をもたらすのかなど、その趣旨や開催効果について大きな注目を受けた。
 われわれプロジェクト研究の「EXPO2005と関連事業が地域に及ぼす経済・社会効果を研究する」という問題意識からすれば、当然、こうしたジャパンエキスポの同時開催は大変興味深いものであり、そのため、開催期間中の現地調査やヒヤリング調査を積極的に実施し、また、本報告書にもあるように開催効果に関するアンケート調査の実施やシンポジウムの開催に取り組んできた。ジャパンエキスポ2001は、地域の視点から博覧会の開催意義を問い直す絶好の機会となった。ここでは、まず最初に、ジャパンエキスポ制度を見直したうえで、現地調査にもとづき、ジャパンエキスポ2001の概要について報告しておこう。


(2)ジャパンエキスポ制度
 経済産業省のホームページ等を参考にすると、ジャパンエキスポ制度の概要は以下のとおりである。

<ジャパンエキスポ制度の概要>

1.制度の目的
 ジャパンエキスポ制度は、特色ある地域の情報発信、交流の推進、住民意識の向上、産業の振興等に大きな効果を発揮する博覧会を経済産業省が「ジャパンエキスポ」と認定し、地域の自主性、主体性に基づく個性的かつ独創的な博覧会の開催を推進するもので、平成元年に創設された。

2.対象となる博覧会
(1) 主催者
    都道府県あるいは市及び商工会議所、商工会等当該地域の経済団体等が参加して団体を設立し、これにより博覧会を開催する(ただし、公益法人であるか任意法人であるかを問わない)。
(2) テーマおよびコンセプト
    対象となる博覧会のテーマ及びコンセプトは、主催者が独自に決めるものであるが、開催地域の振興や将来の在り方等についての問題意識を有するものが望ましい。また、開催地域の実態からみて意味のあるもの、あるいは必然性があること等開催地域において展開するにふさわしいテーマおよびコンセプトが選定されることが重要である。
(3) 博覧会の開催規模
    対象となる博覧会の開催規模は、開催地、場所、開催期間等によって異なるが、地域の振興等に効果を及ぼすためには、ある程度の規模が必要で、具体的な目安としては、以下のような規模が考えられる。ただし、必ずしもこれらの目安を満たさなければ「ジャパンエキスポ」として認定されないものではない。
       1)予想入場者数・・・100万人以上または開催都道府県の総人口以上の入場者が見込まれる
       2)会場の広さ・・・・概ね10ヘクタール以上
       3)開催期間・・・・・概ね60日以上
3.認定について(省略)
4.名称について(省略)
5.フォローアップについて(省略)
6.開催効果に係る実績報告について(省略)
7.補助の概要(ジャパンエキスポ制度に対する予算措置)

   博覧会主催団体及びこれに準ずる団体が行う博覧会の企画段階(調査費、基本構想策定費、基本設計費、実施設計費)に対する経費の一部を補助する。

 また、認定に当たっての審査事項(参考)から、ジャパンエキスポに不可欠の要件が明らかになっている。
   (1) 主催者の構成、意思決定ルール、責任体制等
   (2) 開催目的等
   (3) 企画の斬新性に挑戦する体制整備
   (4) 主催者(中核的主催者)とプロデューサー等との役割分担
   (5) テーマおよびコンセプト
   (6) 具体的展開方法
   (7) 協力・参加計画
   (8) 会場の跡地利用計画
   (9) 博覧会と長期計画及び行政ビジョンとの関係
   (10) 会場及びその立地条件
   (11) 来場構造の予測
   (12) 予算と工程の組立

 いわゆる「地方博」ブームのきっかけとなったのは、神戸ポートアイランド博覧会(1981年)の成功であり、その後、1980年代の後半には、全国各地で大小数多くの地方博覧会が開催された。この地域周辺では、葵博・岡崎87(1987年)、ぎふ中部未来博覧会(1988年)、世界デザイン博覧会・名古屋(1989年)が有名である。経済産業省認定の「特定博覧会」(ジャパンエキスポ)制度が平成元年(1989年)に創設され、第1回の富山博覧会(富山県)が開催されたのは1992年であり、それ以来、今回のジャパンエキスポ2001までに、三陸・海の博覧会(1992年・岩手県)、信州博覧会(1993年・松本他)、世界祝祭博覧会(1994年・伊勢志摩)、世界リゾート博(1994年・和歌山県)、世界・炎の博覧会(1996年・佐賀県)、山陰・夢みなと博覧会(1997年・鳥取県)、国際ゆめ交流博覧会(1997年・宮城県)、南紀熊野体験博覧会(1999年・和歌山県)がジャパンエキスポとして開催されてきた。

(3)ジャパンエキスポ2001:3つの博覧会調査報告
 一般に報告されている、ジャパンエキスポ2001の開催結果は以下のとおりであり、ほとんどは入場者数や事業収支(黒字か赤字か)しか注目されない。否、それだけで評価される場合が多い。しかし、それだけでは、地域づくりや地域への開催効果の視点から考察し、評価することはできない。
 こうしたジャパンエキスポを調査し、比較考察する場合、いくつかのポイントがあると思われるが、今回のジャパンエキスポ2001調査では、われわれの研究テーマやEXPO2005が直面している問題を意識して次の4つの点を中心に比較考察した。
   @ 博覧会の概要(テーマと基本理念、期間、開催の経緯と趣旨)
   A 博覧会計画と関連事業(会場計画とアクセス、財政計画、関連事業と跡地利用)
   B 博覧会の企画・運営と市民参加
   C 開催効果:期待と現実
 以下は、今回の調査報告の骨子をまとめ、列挙したものである。各エキスポについて詳しくは、本報告書Uの第1部およびそれに添付したレジュメ集で報告されている。

ジャパンエキスポ2001:概要

うつくしま未来博 山口きらら博 北九州博覧祭
事業費 174億円 123億円 107億円
期  間 7月7日〜9月30日 7月15日〜9月30日 7月4日〜11月4日
目標入場者数 200万人 200万人 200万人
最終入場者数 166万人 251万人 216万人


1)うつくしま未来博
 @ 博覧会の概要
     ・県民運動のシンボルとして
     ・「自然との共生」と県民参加プログラム
     ・会場地決定のタイミングの遅れとその後の調整
 A 博覧会計画と関連事業
     ・須賀川市有地の借用と会場アクセスの悪さ
     ・財政規模の大きさと大きな県負担
     ・福島空港、道路、あぶくま高原都市構想、須賀川テクニカルリサーチガーデン
 B 博覧会の企画・運営と市民参加
     ・森や自然と共生した会場および企画と企業出展の不釣り合い
     ・多様な参加プログラムと市民参加型会場ボランティア(会津NPOセンター)
 C 開催効果:期待と現実
     ・経済効果や博覧会の事業採算性よりも社会的、文化的効果を重視
     ・心に残る博覧会、でも不便でもう一度行こうとは → リピーターが少ない
     ・県民運動、県民参加、市民参加  地域づくり=ひとづくり
     ・今後、人的資産をいかに継承して具体的効果に結びつけていくかが問われる。


2)山口きらら博
 @ 博覧会の概要
     ・「いのち燦めく未来へ」→ 基本コンセプトは「元気」
     ・「やまぐち未来デザイン21」:新世紀における新たな県づくり
     ・「一般的な国際博のようで、ジャパンエキスポらしくない博覧会」
 A 博覧会計画と関連事業
     ・国有干拓地払い下げ、スポーツ交流ゾーン、社会資本集積、アクセスの良さ
     ・小さな県負担と事業採算性を重視
     ・アクセス道路と恒久的なスポーツ交流施設、干拓地の多様な利用計画
 B 博覧会の企画・運営と市民参加
     ・海に隣接し、シンボルドームがあり、美しい会場
     ・元気さや面白さを基調にした企画とプロフェッショナル、リピーターの多さ
     ・「きららネット」:官製のよくできた市民参加の会場ボランティア
 C 開催効果:期待と現実
     ・サービス事業、収益事業としての博覧会計画と経済効果
     ・跡地利用を特別考慮する必要のない干拓地開発利用計画
     ・地域の特性や地域づくりの視点が出ていないが、地方博として成功か。
     ・短期的な経済効果は十分だが、社会基盤整備や社会・文化効果を生かせるか。

3)北九州博覧祭
 @ 博覧会の概要
     ・ものづくり、産業観光、産業技術。期間が、他の2つに比べて長い。
     ・北九州市ルネッサンス構想と新日鐵工場跡地の再開発計画
     ・博覧祭:博覧会、コンベンションおよび「祭り」の一体化
 A 博覧会計画と関連事業
     ・JR駅前すぐ、特徴はないが、跡地の有効利用を考慮した会場
     ・小さな財政規模と市負担
     ・都市道路網の整備、周辺の大規模再開発、自然史博物館と文化機能の集積
 B 博覧会の企画・運営と市民参加
     ・シンボルとしての東田第一高炉、モノづくりメタルカラー館、アジア交流
     ・初の市民参加パビリオン、スペースワールドとの相乗効果?
     ・社会福祉協議会による会場ボランティアと地元大学の協力による学生参加
 C 開催効果:期待と現実
     ・展開する再開発事業の起爆剤としての期待が大きかった。
     ・ものづくり、産業観光そして最新テクノロジーという側面と、博覧会のアミューズメント性を両立させるのはかなり難しい。
     ・大きな成功もないが、大きな失敗もない。まとまりすぎた都市型博覧会。


(4)「うつくしま未来博(福島県)を訪ねて」
 以下は、うつくしま未来博の調査報告として、木村光伸(経済学部教授)・水野晶夫(経済学部助教授)・小林甲一の3名で中日新聞に連載したものである。うつくしま未来博による福島県の地域づくり、そして地域における新しい博覧会の姿を印象づける内容であるので、ここに改めて転載しておきたい。

* 第1回:県民運動としての地方博
 万博の開催効果に関する調査研究の一環として、先日、福島県で開催中の「うつくしま未来博」(期間:7月7日〜9月30日)を訪れた。会場は、あの首都機能移転候補地に近く、福島県が推進する「あぶくま高原都市構想」の一角をなす須賀川テクニカルリサーチガーデン用地内にある。アクセスは、空港から車で10分、東北自動車道からは新設の道路を利用して25分、また郡山からシャトルバスで40分である。私たちは、空港からレンタカーで会場に向かった。途中から、とても立派なメイン進入路が広がってきた。やはり、会場周辺の地域には、社会資本の整備が集中的におこなわれたようだ。
 メインゲートを抜けて入場し、まず事務局の方にお話をうかがった。すると、博覧会の構想や内容は、「いかにも地域開発型の地方博」といった第1印象とは少し趣を異にしたものだった。そもそも、この博覧会は、“うつくしま、ふくしま。”県民運動の第U期シンボル事業として構想された。21世紀に向けた新たな地域づくり=美しいふくしまの創造に取り組む福島県の姿を提示し、参加・交流・体験を通して県民や来場者みんなで考え、学ぼうとしたのである。平成7年から準備が進められ、その後、会場地や計画の決定、ジャパン・エキスポ認定と、それほど大きな反対や障害もなく順調に推移してきたのも、「県民運動として博覧会を開催する」という共通理解が浸透していたからであろう。
 この未来博の特徴は、@「森と共生するくらし」の新世紀実験場とA参加プログラムで満ち溢れる、“プログラムEXPO”である。コンセプトは、「エコロジー」と「参加」だ。確かに、県民参加スペース、90市町村ふれあいパーク、からくり民話茶屋では県民参加による催しが繰り広げられ、エコファミリーパークや森の学校には来場者参加型の多様なプログラムが用意されている。力を入れた“博覧会づくりへの参加プログラム”の数は、開催日直前、ついに目標の‘2001’に達したそうだ。
 会場の跡地は、環境と共生した住宅地(約300区画)として、同時に開発された周辺は企業・教育用地として利用される。また、博覧会開催による直接的な経済波及効果も気にかかる。目標入場者数は200万人以上を見込み、総事業費174億円のうち約60%を県が負担するが、最終的に収支赤字となり、県負担がいっそう増大することも考えられる。しかし、これで県民運動がますます活性化するとすれば、その人的資産がもつ効果は計り知れない。経済効果や赤字の問題など二の次ではないか。こんなことを強く考えさせられた。
(小林 甲一)

* 第2回:森の中の博覧会
 エコロジーを基本コンセプトとし、「森と共生するくらし」の新世紀実験場をめざした「うつくしま未来博」は、会場で何を主張し、そしてそれは成功しているのだろうか。
 会場のなかで、エコロジー精神と21世紀型のライフスタイルを提案する中心施設はエコファミリーパーク(環境共生体験村)だ。ここでは、地球規模の環境問題に対する取り組みを個人や家族で始めることの大切さと、その実現の可能性が語られる。出展の構成そのものは、ごみ処理、省エネ、水循環、ビオトープそしてエコハウスの提案と多種多様だが、それぞれは、いわば通俗的な展示の連続に過ぎない。にもかかわらず、全体としてユニークに見えるのは、この展示群があくまでも県民の実感できる視点から、環境問題の大切さと改変の可能性を語りかけているからにほかならない。そういえば、会場内のトイレを施設内での完全浄化タイプにした(汚水を外に出さないという点で、これも環境展示である)のも成功だと思う。
 この体験村からは、ネイチャーランド(昆虫を通してみる世界)へと進むこともできれば、「遊びと学びの森」へ足をのばすこともできる。いずれも福島の豊かな自然を体感し、エコライフの工夫と同時に、今後も、守り育んでいかなければならない自然を見せてくれる。
 「遊びと学びの森」では、森のネイチャーツアーと森の学校プログラムに参加することができる。前者は、会場北部を被う豊かな森空間を体力や見学プランにしたがって散策し、「自然の価値」を体感する企画である。愛知万博の「海上の森」会場で議論されたスニーカーゾーン(自覚的に自然を満喫する人のための制限的体験ゾーン)とよく似たプランは、これまで自然観察や自然保護に携わってきた人たちの自主的活動によって支えられている。自然を空間展示とするためには、その地を熟知した地域活動者の協力が不可欠なのだということが、関係者にもよく理解されていたのだろう。市民ボランティアが支えているという点では、自然から生まれた遊びや技術・芸術を伝承する「森の学校」も同様だ。とくに、福島らしい伝承遊びが、高齢者によってこどもたちに受け継がれていくような活動こそが、新しい時代における博覧会のあり方を示唆している。
 やはり、「森の中の博覧会」も、その中心テーマや運営が、単純な企画展示ではなく、県民自身の手にゆだねられているところにその真髄があるのだろう。それに比べれば、同じ会場のなかでも、コンピュータ・グラフィックを駆使した大型立体映像で水の惑星・地球を見せる展示館やたくさんの企業館などが少し陳腐にさえ見えるのである。
(木村 光伸)

* 第3回:博覧会とNPO・ボランティア ― 参加型から参画型へ:NPOセンターの挑戦 ―
 未来博会場から離れること北西約50kmの会津若松市。この中心部のはずれに、会津青年会議所のメンバーが中心になって設立したNPO法人「会津NPOセンター」がある。うつくしま未来博の運営にかかわるボランティアの企画・募集・調整をおこなっている「ボランティアセンター」は、このNPOによって運営されている。NPO法が施行されて間もないが、こうした民間のNPOセンターが、博覧会のいわゆるボランティア業務を一括して請け負ったのはおそらく全国でも初めてのことだろう。
 この経緯について、会津NPOセンターの方にお話を聞いた。「県民運動の第T期:ふくしま国体(平成7年開催)でも、いわゆるボランティアはありました。でも、それは行政主導の動員型ボランティア。各種団体から集まったボランティアは、予め決まった仕事をこなすだけ。未来博への市民参加があんな動員型になってはと思って手を挙げたんです。私たちが、単なる参加型で終わるのではなく、参画にまでかかわることで、ボランティアの経験を活かして地域で活躍する人材を育てることができればうれしいですね。」
 会場内では、一般の市民はもちろん、若者(高校生・大学生)や高齢者が、ボランティアとして車イスやベビーカーの貸出、お年寄りや身体の不自由な方のお手伝い、手話通訳や会場美化などさまざま活動をおこなっている。県職員がボランティア休暇として、こどもの体験のために親子で、といった参加もある。日程の調整や仕事の指導など、むずかしい点もあるが、工夫を重ねながら運営されており、参加申込みも、わざわざ仕事を探さなければならないほど多数あるようだ。
 ボランティアセンターには、3冊の活動ノートが置かれている。その日の出来事から事務局への要望、ボランティアの意義を問うものまで、さまざまな意見が記されている。身障者用バス乗降場や会場内のゴミ箱設置場所など、この活動ノートで市民の視線から提案された意見がきっかけとなって、事務局で検討され、改善されたそうだ。センターの若い男性スタッフに感想を聞いてみた。「実は、ぼく失業中なんです。友人に誘われて参加したのですが、そのうちにおもしろくなって事務局の仕事まで携わるように。未来博の後は、ここでの経験や自信を活かして次の仕事にチャレンジしていきたいですね。」
 21世紀型の、市民参加型の博覧会とは何か。そのあり方が問われるなか、こうしたNPOセンターや福島県民の取り組みが1つのヒントになるのではと思いながら会場を後にした。
(水野 晶夫)



TOP>NGU EXPO2005研究>第4号(目次)>T.ジャパンエキスポ2001調査報告>2.開催効果アンケート調査の概要
2.開催効果アンケート調査の概要
プロジェクト研究代表 小林 甲一
T 趣 旨
 本報告書のなかでこれまでにも述べたように、私たちの研究グループは、「2005年国際博覧会が地域に及ぼす効果」について調査研究をおこなう、また「国際博覧会の経済効果に関する計量分析 ― 開催実績比較・地域開発の視点から ―」(文部科学省科学研究費補助金 課題番号:13430018)についても研究を進めるという立場から、2001年度、うつくしま未来博・山口きらら博・北九州博覧祭と、3つの地域で同時に開催された“ジャパンエキスポ2001”に強い関心をもち、調査研究をおこなった。この場合にも、基本的な視点は、「ジャパンエキスポ(博覧会と関連事業)がその地域にどのような効果を及ぼすのか」であったが、その要点は以下のようであった。
 1)ジャパンエキスポ2001に関する全般的な比較調査
    @博覧会開催の経緯と趣旨      A博覧会計画と関連諸事業
    B博覧会企画・運営と市民参加    C期待された開催効果と実際の開催効果
 2)ジャパンエキスポとその地域に及ぼす経済・社会効果
    @ジャパンエキスポ制度について
    Aこれまでのジャパンエキスポとその開催効果
    B地域における政策評価の視点からみたジャパンエキスポ
 3)ジャパンエキスポ2001と市民参加
    @博覧会開催と市民参加
    A3つのジャパンエキスポ2001における市民参加
    B博覧会における市民参加の課題と展望
こうした調査研究のための基礎データづくりの一環として、またEXPO2005に関する今後の調査研究に資するため、われわれは「ジャパンエキスポ2001開催効果に関するアンケート調査」を実施した。ジャパンエキスポの開催効果に関するアンケート調査については、(社)日本イベント産業振興協会『ジャパンエキスポ開催効果測定手法に関する研究』(平成12年3月)が詳しい。そのなかでは、開催効果アンケート調査の実施方法や過去のジャパンエキスポの開催効果実績などについてまとめられている。に関する考察なども含めて、また、今回の各開催主体も、開催前・中・後にわたってさまざまなアンケート調査をおこなっている。そこで、われわれは、@3つのジャパンエキスポ2001開催地に対して共通のアンケートをする、ならびにA調査研究の目的と独自の視点から異なる対象に対してそれぞれ別種のアンケートをおこなう、という2つの特色をもったアンケート調査をおこなった。

U 調査の概要
  *実施期間:2002月3月上旬〜下旬

  *サンプル総数:約2,400件

 先に触れたように、今回の調査は、異なる3つの対象に対してそれぞれ別種のアンケート票を送付した。それら3つの対象とそれぞれのアンケートの主な内容は以下のとおりである。
  @協賛・出展・協力した企業・団体ならびに地域の業者
    ・博覧会への期待度および博覧会開催へのかかわり方やテーマ理解
    ・博覧会にかかわったことの効果と評価基準
    ・博覧会開催の全般的な経済的、社会的効果  など
  A県下の市町村、および行政関連の団体
    ・期待した地域への開催効果、博覧会に対する評価および参加、協力態勢
    ・地域住民の関心度および不安や懸念
    ・博覧会関連予算、観光誘発効果、開催上の問題点および全般的な効果  など
  B展示・運営に参加した市民・市民団体
    ・博覧会の会場や内容に対する評価、テーマ理解および参加の形態や契機
    ・博覧会への参加による効果、市民参加上の問題および全般的な効果   など

 アンケート項目の詳細については、次の3.アンケート調査票をご参照願いたい。また、調査結果の概要については、4.アンケート調査の結果についてをご覧いただきたい。

 サンプル総数:約2,400件の内訳を、うつくしま博・山口きらら博・北九州博覧祭の各博覧会開催地別に、かつ上記の@・A・Bの対象別に示すと下表のとおりである。

うつくしま博 山口きらら博 北九州博覧祭
@協賛・出展・協力の団体・企業 331件 104件 292件
A市町村・行政関連 90件 56件 該当なし
B市民・市民団体 1000件 500件 59件


 なお、今回の調査に際しては、各開催地の連絡先把握状況の違いやプライバシー保護などの問題から、アンケート票送付先の確保や送付数の調整などかなり難しかった。にもかかわらず、この開催効果アンケート調査の趣旨をご理解のうえ、全面的にご協力いただいた、博覧会開催主体の関係各位には改めて感謝申し上げたい。


TOP>NGU EXPO2005研究>第4号(目次)>T.ジャパンエキスポ2001調査報告>3.アンケート調査表
3.アンケート調査表


ジャパンエキスポ2001開催効果に関する
アンケート調査結果
協賛・出展・協力の団体*企業用
市町村・行政関連用
市民・市民団体用



TOP>NGU EXPO2005研究>第4号(目次)>T.ジャパンエキスポ2001調査報告>4.アンケート調査の結果について
4.アンケート調査の結果について
プロジェクト研究代表 小林 甲一
 <ジャパンエキスポ2001開催効果アンケート調査結果のポイント>
       以下、集計結果から見てとれる調査結果のポイントについて列挙する。

1. 地域に及ぼす効果に関しては、概ね、経済効果よりも、情報発信、イメージ  アップ、市民参加、他地域との交流、文化創造、社会教育など社会的・文化  的な効果に対する評価が高い。
2. 経済効果については、観光客の増加・観光開発ならびに地域経済の活性化や  地域産業の振興が期待されたが、実際の効果は期待ほどではない。
3. 博覧会そのものに対する評価は、概ね良好であるが、会場外のプログラムや  関連イベントに対する評価はそれほど高くない。
4. 協賛・出展・協力の企業や団体にとって、博覧会への参画による効果はまず  まずであり、なかでもイメージアップ・PR、情報交換、環境意識および広  告・宣伝に効果があったと評価されている。
5. 市町村に対するアンケート調査の結果は大変興味深く、そこから読みとれるこ
 とは多様であるが、全般的には財政負担増などコストの部分と地域に及ぼす社 会的・文化的効果のあいだでの「費用対効果」を評価する必要がある。
6. 参加した市民が博覧会の効果を積極的に評価するのは当然であるが、それに  しても市民・市民団体に対するアンケート調査の結果は、「市民参加による」  博覧会の開催効果がきわめて大きいことを示していると考えられる。

 *返送されてきた有効サンプル数は、各アンケートごとに以下のとおりである。
@協賛・出展・協力の団体・企業 283件 (発送総数727件で、回収率38.8%)
A市町村・行政関連 108件 (発送総数146件で、回収率74.0%)
B市民・市民団体 900件 (発送総数1,559件で、回収率57.7%)


 *集計結果の概要については、次ページ以降のとおりである。紙幅の関係もあり、記述  する項目や集計結果を示してもあまり意味のない項目については、割愛するか、ある  いはその結果を簡潔にまとめたコメントをつけた。また、各エキスポ別の集計や項目  間のクロス集計によっていくつか興味深い結果をうることもできたが、それらは今後  のEXPO研究のデータとして利用することとし、今回は、開催効果に関するアンケ  ート調査結果の全容が示すことを目的に、単純な集計結果だけを公表した。

目次