TOP>NGU EXPO2005研究>第4号(目次)>V.特集:オーストラリア調査報告>3.シドニー・オリンピックの環境戦略と成果 | ||||||||||||||
W.地域保全の自立的形成の論理を求めて ―地域から地球環境保全の戦略的理念を構築するために― |
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名古屋学院大学総合研究所 EXPO2005プロジェクト研究 |
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《 提 言 》 | ||||||||||||||
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《 趣 旨 》 EXPO2005:「愛知万博」は、かつて地域開発の「起爆剤」として構想されました。が、時代の変化とともに、従来の開発型公共事業から、地域保全を前面に出した「環境保全主張型」プロジェクトへと変貌を遂げ、その後、21世紀における人類の生存とその前提をなす地球環境の完全な保全を目標に掲げて「新しい地球創造:自然の叡智」をテーマに全体計画の策定を進めてきました。しかし、「自然の叡智」という新しいコンセプトについては、博覧会協会やその企画グループにおいてでさえ、十分な理解が得られているとはいえず、また、会場計画に自らのテーマを投影することができないまま時間だけが推移しているように思います。いわゆる「オオタカ問題」への対応も含め、この博覧会を動かす理念に対する根本的な疑義が噴出する現状をあいまいにしたままで計画づくりを進めることは、EXPO2005の開催意義を大いに損なうものであると考えざるをえません。会場予定地の「海上の森」が自然の叡智を考える場としてふさわしいかどうかはともかく、「会場予定地の自然さえも守れないような環境型博覧会」に対する反対意見が広く支持されている現在、「自然の叡智」の本義に立ち返って博覧会を構想する勇気が必要であると思います。 EXPO2005が、あくまで「海上の森」(瀬戸市南東部地域)を中核的会場とする博覧会である以上、われわれは、その地域の自然がどのような経緯で構築されてきたのかという歴史的認識を欠いてその計画を描くことはできません。いまこそ、このことをいっそう真剣に考えなければならないときではないでしょうか。この瀬戸地域が、1300年の長きにわたってわが国有数の窯業の産地として生き続けてきた証しが、今、われわれの目にする瀬戸の「里山」であります。遠大なる時間軸のなかでその利用と再生が繰り返されてきたことが、結果として大都市近傍の地に稀少な自然を存続させてきたのです。その「里山」の中心は、何によりも地域に生きた人びとであり、地場産業としての陶磁器産業を永続させてきた「ものづくり」であるということ、そしてそれが「自然の叡智」と「人智」の接点そのものであるということを、われわれは、十分に理解しておく必要があります。「里山」というキーワードは、けっして安易な自然保護の代名詞であってはなりません。地域における経済と自然のあいだの歴史的な緊張関係がつくり上げたもの、しかも人間と自然のあいだにあるきわめて日本的な関係意識が関わった独特の自然環境として「里山」を位置づけることこそ、「海上の森」を会場とすることの本意であったはずです。 1999年度に、降ってわいたように登場したオオタカ問題。日本における自然保護の現況に鑑みれば、当然、それには緊急度の高い保全策が求められるでしょう。しかし、そのことをもって、ことさら里山の「不可侵性」を強調するようなことがあれば、地域の自然を考える基盤は根底から失われてしまうことになります。「海上の森」の保全論議に並行して、瀬戸地域の近傍でどれくらい多くの里山的自然が消滅しつつあるかを知れば、今日の保全論議がいかに地域の現実からかけ離れているかが分かるはずです。「地域からの視点」で発言を続けるわれわれにとって、「地域全体における均衡のとれた土地利用」と「自然環境保全」は一体のものであるということを、地域の外で議論を続ける多くの有識者に理解していただきたいと考えます。 われわれは、EXPO2005が地域にもらたすであろうさまざまな社会・経済効果を予測し、また、それが地域の自発的な活性化の努力を誘発することを明らかにしつつあります。それだけに、この博覧会が、日本における中央と地域、グローバルな世界と地域を新たな発想で結びつけるものでありたいと願い、そのために必要な地域の自立的形成や活性化のアイディアを模索しています。すでに、1999年6月25日の『緊急提言』では、そうしたアイディアの原点として「オープンエリア」型の博覧会を提案しました。会場予定地である瀬戸地域を中心とする一帯は、「ものづくり」日本の重心にあり、匠の技からハイテク技術に至る歴史的な産業集積を誇るところでもあります。その地域が、同時に産業と人間活動の成果として「里山」を保存してきたところに、新たなHuman−Nature Complex の可能性を見出すことができるでしょう。「人智」を尽くしてテーマ:「自然の叡智」を構成し、エキサイティングに発信する「閉ざされた博覧会場」。その外延に人びとの暮らしと自然の利用および再生というプロセスで展開する「オープンエリアのフィールドゾーン」。これら2つが連動してはじめて、21世紀型の博覧会は有意義なものとなるはずです。 すでに、瀬戸地域には、陶磁器産業の発展によって形成された数多くの「産業遺産」と新しい産業育成のための施設があり、またものづくりの歴史を継承し、明日へ繋ぐための文化・学習施設があります。さらに、中核的な博物館を建設する構想もあり、これらを有機的に連動させ、魅力的な導線を形成することにより、ものづくりを体験しながら、地域の経済社会と環境のあり方を学ぶ生きた“フィールドミュージアム”を現出できることはまちがいありません。現在では、自然破壊の元凶のようにみられている「陶土・珪砂採掘場」でさえも、人間−環境系を模索する生きた教材として再生させることができるはずです。閉鎖型の会場とこれらを有機的に結びつけるアクセスの工夫さえあれば、来訪する人びとは、それぞれの興味と期待に応じた施設やイベントを選択できることでしょう。新しい環境観は、こうした発想のなかから生まれるのであり、従来の「手を触れない」型の保護観を払拭し、真に「地域に根ざした環境観」を構築することこそが、地球環境問題に立ち向かい、21世紀を見通すEXPO2005にとって最重要課題であると確信します。 われわれは、「新しい地球創造」の理念に向け、「人智」を傾注して「自然の叡智」を具現するような博覧会を構想していただきたいと念願するものであります。そのために、「地域からの発想」を理解できる体制が早急に形成されることを強く要望します。以上の構想が、博覧会に生かされることにより、既存の研究機関、博物館などを連携した新しい柔構造の自然環境研究ネットワークが形成され、その中心に「海上の森:里山研究博物館」が博覧会記念のモニュメントとして残されれば、21世紀型博覧会として「新しい自然観とそれに基づく生活様式」を世界に発信することができると考えます。 |
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TOP>NGU EXPO2005研究>第3号(目次)>Z.2000年度活動報告 |
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Z.2000年度活動報告 | ||||||||||||||
プロジェクト研究代表 小林 甲一 | ||||||||||||||
1998年3月に名古屋学院大学総合研究所(旧称:産業科学研究所)のEXPO2005プロジェクト研究が活動を開始して以来、3年あまりの歳月が経った。このプロジェクト研究も、3年目に入り、当初、予定していた研究計画の第2段階中盤にさしかかってきた。博覧会の会場計画や事業規模が依然不確定であるため、本プロジェクト研究のもっとも重要なテーマである「EXPO2005が地域に及ぼす経済・社会効果」に関する調査研究は、当初からみるとあまり大きな成果を示すことができない状態でいるが、それ以外は、概ね計画していた研究テーマに沿って着実な調査研究活動を続けている。とりわけ、この年度は、ハノーバー博の視察調査、EXPO2005事業への参画、瀬戸市の活性化事業・産業振興への参画、およびシンポジウムの開催を重点的におこなった。2000年度の主要な活動内容は、以下のとおりである。 1.主な調査研究活動 ・EXPO2005の構想や内容、会場基本計画に関する調査および政策提言 ・EXPO2005の開催効果に関する調査研究 ・博覧会開催効果に関する国際比較調査:ハノーバー博 ・周辺自治体の地域計画および地域政策に関する調査研究 ・瀬戸市周辺の経済動向に関する調査 ・瀬戸市の活性化および産業振興に関する調査 ・瀬戸の陶磁器産業に関する実態調査 2.シンポジウムの開催 テーマ:EXPO2005:地域の知恵 ― ハノーバー博をこえて ―
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3.ハノーバー博視察調査
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4. NGU EXPO2005 研究 第2号の刊行(2000年5月) |
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地域からの再考:EXPO2005
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5.その他 *2005年日本国際博覧会および瀬戸市周辺の地域形成に関する提言(2000年5月25日) 地域保全の自立的形成の論理を求めて ― 地域から地球環境保全の戦略的理念を構築するために ― (本報告書 Zを参照) *対外活動 ・「愛知万博検討会議(海上地区を中心として)」 木村 光伸:2005年日本国際博覧会推進瀬戸地区協議会を代表して参加 ・本プロジェクト研究に対する取材およびヒアリング(主に、小林 甲一) 愛知県博覧会推進局 中部通商産業局国際博覧会推進室 NHK名古屋放送局 中日新聞 など ・瀬戸地域活性化研究会(瀬戸商工会議所地域プランナー派遣事業) 三井 哲:学識経験者として参画 ・瀬戸市産業振興ビジョン研究会(瀬戸市商工観光課と共同で) 参加メンバー:十名 直喜 三井 哲 伊澤 俊泰 大石 邦弘 ・講演:平成12年度瀬戸市産業振興会議研究会 十名 直喜 三井 哲 小林 甲一 |
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おわりに 2000年度において、「EXPO2005が地域に及ぼす経済・社会効果」の考察に関しては、ハノーバー博の現地調査が有意義であった。当初は、単なる国際比較調査の一環として臨んだものだったが、実際に博覧会開催中の現地を視察すると、今後の調査研究を続けていくうえで必要不可欠な、研究の視点、考察のポイントおよび分析手法などできわめて大きな収穫があった。また、本年度は、各メンバーがEXPO2005の検討や瀬戸市の活性化・産業振興に関わって積極的な社会活動・政策提言を展開することができた。われわれの調査研究活動、および本プロジェクト研究の意義や有効性が社会的に評価されたことの証左であると思いたい。2001年度から2002年度にかけては、研究計画のうえでもっとも重要な段階に入る。今後も、よりいっそう精力的な調査研究活動を展開していきたい。 最後に、2000年度も、われわれのプロジェクト研究に対して、関係各位に、とりわけ瀬戸市には多大なご支援とご協力をいただいた。記して感謝申し上げたい。 |
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